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恋の世田谷線
<1>
「ひかりせんぱーい!バーべキューですけど、家族、恋人同伴って事になってますがお一人様でもぜーーーんぜん大丈夫ですからね」
先輩であり友人の宮崎優子と同期で友人の田奈文(たな あや)の3人でリフレッシュルームで昼食のあとのお茶を楽しんでいると後輩の溝口知子が声をかけてきた。
知子は係長の補佐をしている新人であまりというかまったく仕事ができないため私は係長の補佐の知子の補佐というよくわからない事をしている。
返事のしようがなくてただ微笑を返したのだが
「もしかしてひかり先輩って、一緒に来る人がいないんですか?それなら私が係長にひかり先輩も車に乗せてもらえるようにお願いしてあげます」
BBQは第二営業課の交流会として知子と係長で企画したものだが、家族、恋人などの同伴が認められているが現地集合でそれぞれが現地までの足を確保しないといけない。
この二人の車に乗るなんて絶対に嫌だが、角が立たない言い訳を考えていると優子と文がほぼ同時に
「「ひかりの事は大丈夫だから、それよりもしっかりと仕事を覚えてひかりの手を煩わせないようね、仕事もBBQ企画くらい速くやってくれればいいんだけど」」
と、長台詞にもかかわらず二人の息はピッタリだ。
知子は「そうやって新人を虐めるなんて酷い」と言いながら明らかな嘘泣きで走っていった。
周りからはまるで私たち3人が新人をいじめているように見えているだろう。
「あの女、よく言えたもんだ」と優子が言うと「ホント!今回だってあの女だけならスルーだけど係長が絡んでいるから断れないし」と文が盛大なため息をつく。
そうなのだ、係長もこの企画に絡んでいるから半強制となってしまい出たくもないのに出席せざるを得ない状況になっている。
「でもさ、本当にウチの車に乗って行きなよ」
優子は昨年結婚したばかりで新婚ホヤホヤなのでお邪魔したくないし、文も彼と参加すると言うことでバスで行こうかと思っていると文が突然
「彼の会社に独身でイケメンが居るから明後日の金曜日に合コンしよう!優子も既婚者だけどそこは旦那さんに私から断りをいれておくから」
「そうよね、ひかりの境遇を夫は知ってるから大丈夫よ」
と、なぜか二人が盛り上がっているが
「土曜日は朝から御朱印巡りをするから金曜日は早く寝ようと思って」
と言うと二人は残念なモノを見るような目をした。
「はぁ、ひかりがいいなら」
優子はすごく心配してくれているけど、あの日、恋人の裏切りを知り、傷心状態で電車を待っているとホームの壁に貼ってあるポスターに目がいった。
私が使っている私鉄とその沿線にある寺社仏閣がコラボをして期間限定の御朱印をいただけるというものだった。
部屋に帰ってからネットで調べると、近くにも参加している寺社があり休みの日に専用の御朱印帳を購入して行ってみた。
御朱印には興味はあったが始める一歩が掴めずにいたからちょうど良い始め時だったのかもしれない。
名前は知っている駅だけど下車したことが無い町を目的の寺社を探しながら散策するのは楽しく、境内に入ると心が洗われた。
特に願い事は無いが手を合わせると少しづつ悲しみから解放されていくような気がした。
昼休憩が終わりリフレッシュルームから出ようとした時「江田さん、ちょっといい?」と声をかけてきたのはエリート集団といわれている第一営業課の高津課長だった。ちなみに私が所属しているのは第二営業課だ。
株式会社KOMAエレクトロニクスは電子部品や半導体などの製造販売をしていて、第一営業課は主に新規開発で第二営業課は主に顧客の管理になる。その為、第一営業課は花形と言われているが開発があってこその営業でさらに顧客の管理があるからこそ次のニーズへ繋がっていく。第二営業課での仕事はやりがいがあった。
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