エブリン王国

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エブリン王国

 エブリン王国は一夫一婦制を重んじる。  国王が急逝してしまったので、長男であるアルベルト王子が後を継ぐことに決まった。25歳の若さ溢れるイケメンな王子である。  国王の妻、アルベルトの母は、後妻でまだわかく、28歳。亡くなった国王の子供がまもなく生まれる。  だが、この国の医療技術では生まれるまで性別がわからない。  いずれにしてもこれから生まれる赤ん坊に国政を任せるわけにはいかないので、アルベルトが国王になるしか道はなかった。  王子は剣技も格闘技も得意な筋骨隆々とした体躯で、目は黒髪には珍しい碧。すっきりとした鼻筋は高く、大きな口をしている。  この近辺の国の男性の多くと同じように、黒髪を無造作に後ろ結んでいる。政治にも精通し、国を任せるのには何の不安もなかった。    王子の侍従は、少し年を取った、やはり筋骨隆々とした男性ばかりだった。  王子も侍従も、突然、国王にならなければいけなくなったことに少し戸惑っていた。  国王になれば世継ぎを作らないわけにいかないからだ。  でも、王子が好きなのは華奢な体つきの男の子だったから。    王子の性癖がわかってからは、貴族の少年や青年で、年上の男の人の方が女の子といるよりも好き。という男の子を密かに城に呼び、王子が成人になってからは王子のお相手をしてもらっている。  いつも城の奥の誰も来ない部屋で、王子はこっそりと、お気に入りの少年を順番に愛する日々が続いていた。  だが、表向きは跡取りを作らなければいけない王子の周囲に若い男の子を置いておくわけにもいかず、少年たちは城の中に部屋を貰っていたが、国王の座を継ぐ前に、全員が城から退去させられた。  国民にはなるべく知られたくなかったし、城のなかでも王子の性癖を知っているのは長くいる王子の侍従たちだけだったからだ。  国王になったアルベルトは、すぐにでもご結婚を。と父の代からの、王子の性癖を知らない大臣に詰め寄られ、しかたなく、近隣のリスター王国の18歳になる王女を嫁に迎えることになった。  一夫一婦制なので、もう少しゆっくりと探しても良いと思えたのだが、肝心のアルベルト国王が、女など誰でも良い。一番近くて、めんどうの無い国から選べと仰ったので、国王の言葉通りに家来が年頃の娘のいる王族を探したところ、リスター王国にアレキサンドラという18歳の王女様がいることが判明したのだった。  リスター王国の方がエブリン王国よりも立場が弱く、望まれれば嫌と言えない状況だった。  おまけにリスター王国も、つい最近国王が変わったばかりで、アレキサンドラの5つ年上の兄君が国王になった所だったので、エブリン王国との縁を是非にも繋ぎたいところだったのだ。  アレキサンドラ王女は18歳というにはとても華奢で、まるで少年のような体つきをしていた。  月の物もまだ来ていなかったので、お嫁に行くなど、恐ろしくてできないとその話が決まってからは泣き暮らしていた。  そんな様子を見かねて、双子のアレキサンドル王子が代わりにエブリン国王の妻になってやる。と、妹に申し出た。  二人は男女の二卵性双生児として生まれたのだが、男女とは思えない程、よく似ていた。大きな眼、形の良い鼻、赤い唇。美しいと言うよりは可愛らしいと言う方が正しいだろう。  この国の辺りでは男性も髪を伸ばして結んでいる事が多かったので、金色の髪も二人とも長髪だったし、良く二人で入れ替わって遊んでいたが、親でさえ気づかないほどに似ていたのだ。  二人は、「ドラ」「ドル」と近しい人たちからは呼ばれていた。  ドルの方が少し背が高かったが、まだ成長途中だったし、元々薄い筋肉しかつかない体質らしく、夫になる隣国のアルベルト国王と比べれば、華奢な花嫁に見えるに違いない。    ただ、月の物がまだ来ていない。という理由で、初夜の義を避け続けないと男だと言う事がすぐにばれてしまうので、そこだけは何とか避けないと国同士の問題にもなりかねない。  ドルはドラに化けて、エブリン王国へ。ドラはドルに化けて国に残る事になった。  盛大な結婚式が行われた。  アルベルト国王は華奢で可愛らしいアレキサンドラ王女を見て、ドキッとした。  華奢な男の子にしかにときめいたことがなかったので、自分でも驚いた。 「なんて素敵な花嫁なんだ。」  アルベルトは挙式の前だと言うのに、王女に化けた可愛くて華奢なドルを、折れないようにそっと抱きしめ、いきなり口づけた。  ドルはその行為に驚いたが、男とキスしているのにちっとも嫌な気持ちが湧いてこなかった。  それどころか、ドキドキして、真っ赤になってしまった。  真っ赤になったドルを見て、アルベルトは更にときめいた。  元々アレキサンドラの侍女が同行していたので急いでアルベルトに物申した。 「おそれながら。王女様はまだほんの少女でございます。」 「月の物がないと言うのはしっている。  月の物が来るまでは、身体の関係はまだ持たないと言うのも約束している。  だが、妻になるのだからハグやキスをするのは当然ではないか。」  ドラのお付きの者も王女様も18歳になっているのだし、それくらいは致し方ないのか。という気持ちになって、それ以上は何も言えなかった。    
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