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「川村さん、この方が今回のクライアントで名前が—」
「渡邉瞬です。…よろしくお願いいたします」
「────」
あの頃と変わらない笑顔。
こんなに私の人生を踏み荒らしておいて、なぜその顔を向けてこれるのだろう。
告白を受け入れた時、誕生日にサプライズをした時、初めてキスをした時。
嬉しそうな表情を浮かべる時、彼は目元を下げた照れ笑いをよくしていた。
今の表情を見て、そんな無駄な記憶を掘り起こす羽目になった。
「ご足労いただき恐れ入りますが、打ち合わせを控えておりますので失礼させていただきます。今後とも、よろしくお願いいたします」
温度のない声に、彼の瞳から期待の色が消えるのが分かった。
身勝手すぎる反応に苛立ちを隠しきれず、あの時と同じように足早にその場を去った。
気持ち悪い。
心象が体調に現れて、同僚に顔色の悪さを指摘されたことで早退する決意を固めて今日中に行う最低限の仕事を行い退勤した。
「——心!」
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