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歓楽街の夜道
昼のように明るい歓楽街の夜道を、サコは急いで歩いていた。
仕事で思いのほか遅くなってしまった。
いつもだったら、人気の多い時間帯に地下街を通るのだが、最近では人気の少ない時間帯になると地下街の方が犯罪が多いと聞いたので、歓楽街の中を抜けようと思ったのだ。
真夜中も近いのに人がたくさんいて、時間の感覚がなくなりそうだった。
サコは
『やっぱり怖い。派手な人が多いし・・急いで抜けよう。』
そう思って、足早に乗り換えの駅まで歩いていた。
「斉藤さん?」
呼び止められ、こんな時間に、こんな場所で知り合いなどいない。と思いながらも苗字を呼ばれたので振り返ってしまった。
「あ・・課長。」
驚いたことに、サコの所属する課の課長が立っている。
いつも通りイケメンで、でも、会社にいる時よりも派手なスーツを着ている。
「あれ、本当に斉藤さんだ。どうしたの?こんなに遅くまで。」
「ちょっと・・仕事が終わらなくて。」
「こんな時間に危ない場所を歩いているねぇ。送るよ。乗り換え?」
「ありがとうございます。」
サコは少しほっとして、課長の少し後をついて行く。
もうすぐ乗り換えの駅。と思った時に気が付くと、派手なスーツの集団に囲まれていた。
「見られちゃったから、食べちゃっていいよ。」
課長は思わぬことを言った。
サコはそのまま囲まれて腕をつかまれ、半分持ち上げられるように男たちの囲まれたまま、派手な店の中に姿を消した。
「ふぅ。副職厳禁の会社なのに、ばれたらまずいもんな。」
課長は、サコが一人暮らしで、身寄りのないことを知っていた。
本番も行われている派手なホストクラブの中で、サコは皆にペロリと食べられてしまった。口封じのためにすべてを動画におさめられ、10人もの男に乱暴されたために、身体はボロボロで起き上がる事もできない状態だった。
朝を待って、かろうじて服を身にまとわされ、外へ放り出されたサコは、通勤途中のサラリーマンに通報され、病院へと収容された。
課長はサコが会社に来られないだろうと予想していたので来ない間は病欠扱いにしていた。
1週間後、サコはようやく出勤した。
課長を見るとそのままナイフで課長を刺し、取り押さえられた。
警察で聴取されたサコのスマホには派手なスーツを着た課長が写されており、乱暴した男たちの顔もすべて写されていた。
最近発売されたスマホの自動撮影機能のボタンを、とっさに押していたので、サコのスマホはカバンにぶら下げたキーホルダー型の360度カメラと連動して、全ての出来事を録画していたのだ。
攫われる道や店も撮影されていたので、すぐに警察が動いて、動画も男達もすぐに逮捕された。
「振り返る時には必ずスマホを握る事にしていました。」
サコの行動はテレビでも報道され、そのスマホを売り出していたサコのいた会社も一躍有名になった。
会社は課長の不始末を黙っている代わりにと、サコに莫大な慰謝料を支払った。
それは、サコのいる会社が開発した最新型のAIが搭載されたスマホで、電車の中の痴漢撃退用に開発していたものだった。
今回のような使い方をすれば、もっとたくさんの犯罪が防げると、空前の大ブームになり、会社は大きな収益を上げたので、サコへの慰謝料など微々たるものだったのだ。
さすがに会社の人達には起きてしまったことを隠すこともできないので、サコは会社を辞めて、犯罪の少ない田舎へと引っ越し、慰謝料を元に小さな食堂を始めた。
警察が、ホストが動画を流す前に回収してくれたので、サコの顔はばれることなく今の所静かな時間を過ごせている。
でも、サコの店には小さなライトの形をした360度カメラが設置され、サコのポケットにはいつもスマホが入っている。
田舎だって、入り口を閉めて振り返ったら急に強盗が来ることがあるのだから。
念には念を。
サコはあの時にできてしまった誰のものだかわからない子供を産んで、田舎で強く生きている。
【了】
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