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幸いナツメが私に羽織らせたバスタオルはとても大きくて、私の膝裏あたりまでしっかりと隠してくれた上にそのタオルの上からナツメは私の足を持っていたから私は少しだけ安心もできた。
「…出入り口の鍵かけたよね?」
「かけたわ、お前がうるせぇから」
「でも夕方私が帰って来た時はかけてなかったよ?」
「……」
「しかもさっき自分が帰ってきた時だって初めは開いてると思ってたでしょ?」
「……」
「ていうかナツメ、いまだに鍵そのものの存在すらも忘れちゃってるでしょ?だから鍵で開ける前にドアをガチャガチャやってたんっ———…っ、」
私がベラベラと話している間にすでにベッドの部屋へと移動していたナツメは、私の言葉を無視して私をベッドへ寝かせるように降ろした。
すぐに私に馬乗りになったナツメは自然と私に影を落とす形となり、真上からまっすぐに私を見つめるナツメに私は今自分の話していたことがすっかりどうでも良くなってしまった。
私にとってこの店の鍵のことなんて実は割とどうでもいいことだったのかもしれない。
もちろんナツメが今日ちゃんと鍵をかけてヤマトくんの元へ向かってくれていたらあの人に会うこともなかったかもしれないけれど、でもそれはきっといつか来る今日という日を少し先延ばしにしていただけのことだ。
そう考えればナツメに会わせることなく“もう二度と来ない”と言わせることができたんだから、やっぱり鍵はかけないでくれて良かったのかもしれない。
ナツメの髪の毛からはポタポタと水が滴っていて、私は思わずその髪に両手を伸ばした。
その瞬間両手に持っていたバスタオルの端が手から離れたけれど、そんなことも今はどうでも良かった。
「髪、まだ全然濡れてる…」
そう言いながらナツメの垂れ下がる髪を後ろに張り付けるように頭に撫で付けてみたけれど、何度そうしてもやっぱり髪の毛は前に垂れて雫は私の顔にも落ちて来た。
そんな私を、ナツメはやっぱり真っ直ぐに見つめていた。
「………カヤ、」
ほら、そうやって真面目なトーンで名前を呼ぶんだもん。
もう何でもいいって思っちゃうよ。
「うん?」
私は優しくそう聞き返したけれど、ナツメは何も言わずに私の背中に両腕を通して私を抱きしめた。
それからはお互いに余計な言葉なんて何もいらなかった。
私はただただ夢中でナツメを求めたし、ナツメもナツメでさっきの続きだと言わんばかりにすぐに私の体の至るところにまた手を這わせた。
その手がどこに移動しようとも、私はもう拒んだりはしなかった。
ナツメは何度も私の名前を呼んでいて、そのたびに私はその先の言葉を待ってみたけれどナツメが私の名前以外に何か言うことはなかった。
でもそれはまるで自分が今抱いているのが私であることを確認するかのような呼び方で、
それが私にはナツメにとってその相手は“私”でなければならないようにも思えたから、名前を呼ばれる度に私は終始胸の奥がキュンとした。

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