最果てシンドローム【完】

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しばらくじっと私の目を見つめ返していた川口は、突然フッと笑った。 その笑いは優しい笑い方なんかじゃなくて、むしろ真面目に話をしようとしている私をバカにするかのようなものだった。 「ここ以外ならどこでも?」 「うん、私はどこでも大丈」 「なら視聴覚室行くか」 川口は依然笑ったまま、真後ろにあった自分の机に軽く腰掛けた。 「……」 「前にも言ったろ?放課後は使われてねぇらしいんだよ」 「……」 「あそこなら人もいねぇし……昨日みたいに邪魔も入らねぇよ?」 “邪魔”…って、先輩のことだろうか。 「そこで二人でゆっくり話すか?」 川口はやっぱり私をバカにするように口元を緩ませていた。 「…川口がそうしたいなら」 私のその言葉に、川口の顔は固まった。 「…は?」 「だから川口が視聴覚室がいいって言うなら私はそれでもいいよって言っ」 「お前バカだろ」 私の言葉を突然強い口調で遮った川口は、もう全く笑ってなんていなかった。 むしろ怒ったような顔で眉間にシワを寄せていて、私はそんな川口に“やっぱり”と思った。 「次こそ俺に何されるか分かんねぇぞ。無理矢理ヤラれるかもしれねぇし殺されるかもしれねぇ」 「…そうかな」 私はそんなことを川口が私にするとは思えなかった。 たしかに昨日の川口はもしかすると本当に私を殺してやろうと思ったのかもしれないし、先輩があのタイミングで来なかったらあのまま無理矢理にでも私を抱こうとしていたかもしれない。 でもこんな私でもちゃんと分かっていることはある。 「次はアイツだって助けに来ねぇかもしれねぇぞ」 「川口はやっぱり優しくていい奴だよ」 話の噛み合っていない言葉を口にした私に、川口は少しだけ驚いたような顔をした。 「私にとって川口が大事なのは昔も今も変わらない。…ただ私がそれ以上の人に出会ってしまったってだけ」 「……」 「川口だってそうでしょ?私のこと好きだって言ってくれた時のあの気持ちは嘘じゃないって言ってたじゃん」 「……」 「…あと今でも本気で好きだって」 「……」 それが“殺したいほどに”なのは少し狂気的で怖い気もするけれど、昨日川口の言った“一緒に死んでやるから”や“俺しかお前を助けられない”という言葉を思えば川口は何も私をただただ殺したいわけではないはずだ。 それでもやっぱりその気持ちは狂気的だと思うけれど、それが川口なら私は怖くはないよ。 …まぁもちろんそのまま死んでやるつもりなんて毛頭ないけれど。 それからしばらく黙って私の目を見つめていた川口は、「はぁ、」と小さく息を吐いたかと思うと俯きながらゆっくり立ち上がった。 「…行くか」 「うん」 それからすぐに荷物をまとめて川口について行けば、川口が向かったのはさっき話に出ていた別棟にある視聴覚室だった。 でも私達の間にはさっきみたいに私にとってヤバくなりそうな雰囲気はなくて、だからここが二人でちゃんと話すために選ばれた場所なのだということを私はちゃんと理解していた。 以前川口と一度だけ来たあの日以来来ていなかった視聴覚室は、サッカー部の先輩の言う通り放課後である今は誰にも使われていなかった。 それなのに施錠もされていないから、ゆっくり話したい私達にとってはこの上なく都合の良い場所だった。

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