01.『 たぶん 』

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彼に出会ったのは高校二年の冬だった。 「俺ら付き合おかぁ?」 初対面であり他所の言葉を使う、うちの高校の制服はブレザーであるはずなのに学ランを着ているこの男。 彼は自分の席に座る私の目の前の席の椅子にドカッと遠慮なくこちらを向いて座り、突然そう言った。 だから私は言ったのだ。 「…は?」 そんな私に彼はあろうことか私の机を遠慮なくバシバシと叩いてゲラゲラ笑っていた。 なんて下品な人だろう。 それが彼の第一印象であり、それ以外なんてその見慣れない学ランと他所の言葉以外何も残らなかった。 それから彼は毎日私の元を訪れて私に「好きやから付き合おか」と言った。 その度に私は決まって「は?」と言葉を返した。 昼休みでお弁当を食べていた私のところへ来た時には、私のお弁当の最後に食べようと残していた唐揚げを当たり前の顔で食べた。 「ちょっ、何してるんですか!?」 「え?何が?」 「何がじゃないですですよ!!唐揚げ!!」 「残しとったから」 「残してたんですよ、わざとです!!」 「あっ、そうやったん!?悪い、悪い!」 悪びれる様子もなくそう言って笑った彼は、「今日は弁当忘れたんや」と聞いてもいないことを私に言いながら持っていたパンを食べ始めた。 しかもこの流れはこれが初めてではないから驚きだ。 「てかここの購買高すぎや!!あんぱん百五十円は意味分からんて!!」 「……」 どうやらうちの生徒であることは間違いないらしい。 「なぁ、そろそろ名前聞いてええかぁ?」 今日もまた私の元を訪れた彼は、本を読む私を気にすることなく話しかけてきた。 “そろそろ”とは…? 「名前も知らないのに私を好きだと?」 無視できない私も私だ。 「ん?関係あるか?俺は名前で好きな女選んだりせんで?」 じゃあ何によって私は選ばれてしまったのかと問いたくなる。 でもそれを聞いて話を広げるのもなんだか癪で、私は小さな声で「ニレ」と呟いた。 「…へ?」 「だから、ニレ」 「お前の名前“ニレ”って言うん…?」 その反応が嫌だから言いたくなかった。 「どうぞ好きなだけ笑ってください」 由来なんて謎すぎるしちょっと幼稚な響きのこの名前は、これまで何度も笑われてきたからもう慣れた。 「へぇ…ニレか…変な名前やなぁ…」 彼は頬杖をつきながら「ますます気に入ったわ」と言って嬉しそうに笑った。 “あぁ、この人はバカなんだ”と、薄々思っていたことが確信に変わる瞬間だった。 「“ニレ”ってどんな字?」 「“楡”…樹木の総称の一つなんだそうです」 私も私で聞かれてもいないことを親切に教えたりするあたり、いつの間にか彼に心を開き始めていたのかもしれない。 「へぇ…俺はタケシ」 「苗字は剛田ですか?」 「誰がジャイアンや」 そう言って私の本を持つ手をバシッと軽く叩いた彼の左手は、一瞬触れただけなのに私のそれより大きくゴツゴツしているのが分かって少しだけ戸惑った。

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