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あの日、私は優馬の帰りをいつものように待っていた。
帰るというメールがきてから数時間経っても帰らない優馬を心配していた私の元に、優馬が亡くなったと、優馬の両親から連絡をもらって駆けつけたら、優馬は静かに目を閉じ眠っていた。
肌は青白く手は氷のように冷たくて。
その後、警察の人から聞いた話によると、冬の寒さで凍った雨の道路でタイヤを滑らせた車に跳ねられたと聞いた。
それからの私はまるで抜け殻のようになり、仕事も辞めて家に閉じこもる日々を送った。
優馬のいない世界なんて見たくなかったから。
「優馬……優馬ッ……何で、何であの日私の所へ帰ってきてくれなかったの!!」
優馬が事故にあった場所は、此処へ帰るには通らない道だった。
あの日、あの道を通らなければ優馬は死ななかった。
「辛い思いをさせてごめん。一人にしてごめん。でも、これを渡したかったんだ」
体が放れ、私の目の前に差し出された小さな箱。
受け取って開けると、また涙が溢れだす。
「何で……」
「事故にあった時にこれだけ飛んで何処かに落ちたみたいなんだ。本当はあの日、プロポーズするつもりだった」
涙で視界が歪む。
今プロポーズされたってもう遅い。
優馬はこの世にいないんだから。
「でも、もう俺はお前を幸せにできないからさ。だから幸せになる未来のために前に進んでくれ」
「無理だよ……。優馬のいない世界なんて――」
言葉を遮る口付け。
優馬は笑みを浮かべ、私が聞くことのできなかったあの日の言葉を口にした。
「ただいま」
私もそれに応えるように涙でぐちゃぐちゃの顔に笑みを作り「お帰りなさい」と口にする。
「んっ……」
目を覚した私は、パソコンの前で眠っていた。
慌てて立ち上がり部屋を見渡すが優馬の姿はなく、バーチャルオンラインゲームの機械も無くなっていた。
あれは夢だったのか。
翌日私は三年ぶりに外へ出た。
外は家の中より寒くて冬が近づいているのを全身で感じる。
向かった先は優馬が亡くなったあの場所。
買ってきたお花を置いて手を合わせ、帰ろうとしたとき近くの草むらに何かが落ちていることに気づき手に取る。
「っ……優馬」
私は小さな箱を胸の前でギュッと抱き締める。
箱に入っていた指輪をお守りのように首にかけ、私は現実を見て進む事にした。
止まっていた時を動かしてくれた優馬を不安にさせないために。
そして、幸せな未来のために私は歩き出す。
《完》
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