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翌朝、おばあさんのところへ行くときにいつも被る赤い頭巾をして家を出た。
狼さんがいてくれるかはわからないけど、きっと賢い狼さんだから私の言葉を理解してくれたはず。
今度は驚かさないようにそっと覗く。
そこには気持ちよさそうに眠る狼さんの姿。
ゆっくり近づいて行くと、鼻をひくひくさせて目を覚ます。
美味しそうなパンの香りがわかったみたい。
「どうぞ、昨日話したお礼のパンよ。私はこれからおばあさんのところへ行かないといけないから、またお花を摘ませてちょうだいね」
狼さんがパンを食べてる間、私はお花を摘んでカゴの空いたスペースに入れる。
「これで大丈夫。おばあさんのお家には少し距離があるからもう行かないといけないの。じゃあね、狼さん」
お花畑を背にして私はおばあさんのお家へ向かう。
でも、何故か後ろを狼さんが着いてきてる。
パンが足りなかったんだろうか。
でも残りはおばあさんの分だからあげられない。
「パンが気に入ったのならまた明日持ってくるわね」
振り返り伝えたけど、まだ着いてきている。
同じ方向に狼さんのお家があるんだろうかと思ったけど、おばあさんのお家に着いてしまった。
おばあさんが狼さんを見たら驚かせてしまうと思い困っていると、狼さんは扉の側に伏せた。
どうやらそこで待っているみたい。
ドアをノックして中へ入ると、おばあさんがベッドで眠っている。
「おばあさん、パンを持ってきたわ。お花も摘んできたのよ」
返事がない。
体調が悪くて話せないんだろうかと思っていると、布団からぴょんっと耳が出た。
それに布団の横からは尻尾。
「アナタ、だあれ?」
布団の中から飛び出てきたのは茶色の狼。
よだれを垂らしながらジリジリと私に近付く。
「おばあさんはどこ!? まさか……」
怖くて動けない。
兎に角逃げなくちゃと扉を開けたとき、茶色の狼が私に飛びかかってきた。
食べられると思った時、私の横からスッと風が通り過ぎたかと思うと、外で待っていた狼さんが茶色の狼さんに噛み付いていた。
キャンキャンと言う声と共に狼は逃げていき、私はその場に座り込んだ。
そんな私の側に狼さんは擦り寄ってきた。
「ありがとう、狼さん」
抱きついた狼さんの毛は思っていたより固い。
でも、とても温かかった。
その後部屋を見たけどおばあさんの姿はなく、血すらもないから無事に逃げたのかもしれない。
兎に角探さなくちゃと思い家を出たとき、銃声が響く。
視線を向けるとそこにはおばあさんと、猟銃を構えたおじさん。
恐る恐る後ろを振り返ると、狼さんが倒れていた。
地面に血が広がっていき、私は狼さんにすがり寄る。
溢れる涙は大粒の雨となり狼さんに降る。
私の腕に伝わる狼さんの体温が冷たくなっていくのを感じながら、私は泣き続けた。
あの瞳と同じ青い空の上に届くように『ありがとう』の言葉を伝えながら――。
《完》
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