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おはよう
寒い寒い長野県の山の中。
その当時は北佐久郡だった、今は佐久市の望月町。
佐久地方の中でもチベットと揶揄されるほど氷点下10℃ほどの極寒の冬の朝。
今のように薄いダウンなどもなかったから、みんなそれぞれ好きな模様の上下綿入りのスノーウェア。
今のように良いスニーカーもなかったので、中ボアのついたスノーブーツといういでたちで、登校する子供達。
「おはよう。」
「おはよう。」
あちこちで声が聞こえると、ほっぺたを真っ赤にした子供達が友達の集団に加わっていく。
キンと冷えた、澄み切った空気の中で、空は薄い青色をして雲一つない朝。
田んぼの中の霜柱を踏むのは靴が汚れると怒られるけれど、ついついあのザクザクを感じたくて踏んでしまう。
あまり雪が降らない土地柄、雪が降った時には、土手に真直ぐに倒れて、人型を崩さないように立ち上がる遊びをする。
遅刻ギリギリまで、寒いのにみんなの登校はノンビリだ。
学校に着くとまだ入学当初は石炭のストーブだった私の学校。
ストーブ当番は皆よりも少し早く来て、石炭を運んで教室を温めている。
遊びながら冷え切って教室に入ると、ホンワリと暖かい空気に包まれる。
その一瞬で、みんなからだがブワッと熱くなって、急いで、ウェアを脱ぐ。
62歳の、昔を思い出す美恵子が振り返る冬の朝の風景は、どこまでも透明であのキンと言う音のしそうな冷たい空気を懐かしく思い出す。
【了】
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