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「騎士さま、大丈夫ですか!? いまこれをよけて、お助けいたしますからね!」
「き、君は……? どこから? いつから……?」
突然現れた修道女に対し、アドルフは驚きを隠せないようであったが、女神はその問いを黙殺し、祭壇を持ち上げた。
おそらく、本来なら大の男二、三人を必要とするであろう重量があったが、女神は難なくそれを浮かせてアドルフを救い出すことに成功し、元の位置へと戻すところまでやり遂げた。
「ありがとう……うっ、痛……」
気丈に御礼を口にしたものの、足を挟まれていたアドルフは起き上がれない様子。
女神はふーっと息を吐き出すと、アドルフのそばにしゃがみこみ、その体を抱え上げた。
「!!??」
「動かないでください。足を骨折しているのでは? 明るいところで見て、治癒魔法をかけます。痛いとは思いますが、少しの間我慢してくださいね」
アドルフは随分と体格が良く、修道女姿の女神よりも一回り大きかったが、女神はその体格差をものともせずに、しっかりとした足取りで月明かりの落ちる場まで彼を運んだ。
明るい場所で顔を見合わせると、アドルフは女神が怪物でもなんでもなく、素朴な修道女であるとわかったらしい。
それでも、少しの間呆然としていた。
やがて、治癒魔法をその身に受ける頃には、落ち着かない様子で頬を染めて横を向いていたが、聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いていた。
女神よ、願いを聞き届けてくださってありがとうございます。
この良縁に感謝を、と。
緊急事態とはいえ、黒猫の肉体を借りて女性の姿へと実体化した女神は、その体に見合った寿命を迎えるまで、生ある者として過ごす定めにある。
さて、今生はこの修道女の姿でどう生きていくべきか――
悩む間もなく、「女神の繋いだ縁」と固く信じるアドルフにかき口説かれることとなった。
女神は「女王に対抗するためにも、他の女性を危険にさらすよりはマシかもしれないな」と自分に言い訳をしつつ、その求愛を受け入れることにしたのだった。
女神の知恵を持つ修道女は、それから長いこと、女王の魔の手から彼を守り、彼の生きがいとしての生涯を過ごした。
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