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県立江里沢高校剣道部は、強豪というわけでは決してない。部員は経験者と初心者が半々で、いつも県大会にギリギリ出るか出られないかというところだ。今年は男子が地区予選で敗退した一方、女子はベスト4に入って県大会出場を果たした。
それが争いのもとになった。
「納得できません!」
道場のど真ん中で、いつきが言い放つ。剣道歴は十年以上、二年生ながら県大会出場の立役者でもある彼女の一喝に、私は思わず背筋を伸ばす。向かいに座る先輩たちは顔を見合わせ、女子主将の田代先輩が口を開いた。
「でも、県大会に三年生が出るのは恒例なんだよ。最後の試合だし」
「そんなの関係ないです」
県大会は五人一組の団体戦である。いま道場にいる先輩三人といつきは、実力的にもスタメン確定の状況だ。問題は、残りの一人を誰にするかだった。
「先輩たちはいいです。でも、直江先輩が入るのは反対です。あの人、ぜんぜん部活に来ないじゃないですか」
「直江のことは、私たちがフォローするから……」
「そうじゃない、態度の問題です」
いつきは一段と声を荒げた。
「私、やる気のない人とは試合に出たくないです。先輩たちの思い出作りのために稽古してるんじゃありませんから!」
隅で見ている男子部員の間から、「こえぇ……」とつぶやきが漏れた。男子なら、こんな揉め方はしないだろう。大会前に部内試合をして、勝った人が出場すると決まっている。そういうところが、男子はあっさりしていていい。女子は良くも悪くも話し合いで決めようとするから、かえってややこしくなる。そんなことを考えていると、いつきがとんでもないことを言い出した。
「私は、果歩を推薦します」
「えっ」
その場の視線が集まって、私はぎょっとした。
「果歩は毎日部活でがんばってるし、地区予選には出たじゃないですか。いまさら外すなんて酷いです。ねえ果歩、そうでしょ?」
「え、えー」
確かに予選には出た。しかしそれは、数合わせのためだ。三年生が三人、二年生はいつきと私の二人で、一年生は全員初心者という状況だったから、他に選択肢が無かったのだ。
高校から剣道をはじめた私は、ぜんぜん強くない。予選も全試合で二本負けしているし、正直、足手まといにしかなってない。
……と言いたいのに、いつきの視線の圧が強すぎて言いづらい。言葉に詰まっていると、道場の扉が開いた。
「久しぶりー」
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