来年は泣きます

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「あの人、田代先輩たちになんか言われたのかなあ」  いぶかし気ないつきに、そしらぬ顔で返す。 「真面目に稽古してるんだからいいじゃん」 「それはそうなんだけど。大会前に戻って来るなんて、調子いいっていうか……」  潔癖ないつきは、まだ納得がいかないらしい。けれどあれから二週間、直江先輩の復帰は、剣道部に明らかに良い影響を及ぼしていた。  まず、先輩は本当に強かった。もともと経験者なのだけれど、毎日稽古に来るようになってからは動きにキレが増したみたいだ。経験者が五人そろったことで、県大会への期待も高まっている。予選で敗退してしまった三年男子も大会までは部活を継続することになり、しぜん、稽古にも熱が入った。  そして私は、部活後に直江先輩から稽古をつけてもらうようになっていた。 「果歩ー、今日は小手(こて)の練習しようか」 「はい!」  胴着袴に小手だけ着けた格好で向かい合う。先輩が、右の小手を空けて打ちやすくしてくれた。 「じゃ、打ってみ」 「は、はい」  私の小手打ちは面打ちよりもさらに下手だ。狙った場所に当たらないし、当たっても鈍いべちんという音がする。 「すみません。先輩、痛いですよね……」 「うーん。いつきもちょっと来て」  呼ばれたいつきは、すぐに小手を着けてやってきた。 「いつきが打つのをよく見ててね」 「あ、私が打つんですか」  と言いながらいつきは竹刀を構え、さっと前に出た。パンっと良い音が道場に響く。三回打たせると、直江先輩は私に向き直った。 「見た? 手首使ってるの。じゃあこんな感じで、スナップ効かせて打ってみて」  上手い人の動きを見たって、すぐに真似できるわけじゃない。でも繰り返し打っていると、だんだん自分の動きが良いイメージに重なってくる感覚があった。 「そうそう、その感じ。覚えといてね。じゃあ今日はこれで終わりー」 「ありがとうございました!」  私たちの稽古を見ていたらしい男子主将の大原先輩が、声をかけてくる。 「直江、そっち終わったなら三本勝負しようぜ」 「ええー? 大原とやるの疲れるんですけど」  文句を言いながら、直江先輩は一度たたんだ防具を広げた。見れば、まわりの部員たちもそれぞれに自主練をはじめている。それを嬉しげに眺めていたいつきは、私の視線に気づいてちょっとばつの悪そうな表情になった。 「ねえ。直江先輩、戻ってきてくれて良かったでしょ?」 「あー、まあ、そうかも? ……そうだね」

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