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友達数人と車に乗っていた時、幽霊が出ると噂のあるトンネルに差しかかった。その時、以前の体験を思い出した。
「俺、少し前に、ここで幽霊を見たことがある」
「おい、今そんな話するなよ」
「大丈夫。その幽霊、悪い奴じゃなかったから」
周りが顔をしかめる中、俺はざっと自分の体験談を語った。
一人で運転していてこのトンネルに入った時、幽霊が現れた。でもその時、自分は疲れのせいで眠りそうになっていて、幽霊の出現に驚いたおかげで意識がはっきりし危なく壁にぶつかりそうになるのを回避できた。
「もしかしたらあの幽霊は、自分と同じような境遇にならないよう、あえて現れてるのかもしれないな」
俺の話に、みんなが『助かってよかった』とか『いい霊でよかったな』と賛同する。
そんな話を続けていたら、やがて出口が近づいてトンネル向こうの景色が見えた。
その時に、何かが突如車の前に飛び出したんだ。
運転してる奴がブレーキを踏んだけれど間に合わず、スリップした車体がトンネルの外に出る。そこに待ち構えていたのは急カーブと切り立った崖だ。
ガードレールを吹き飛ばして宙に踊れ出た車体。その状態で、誰かが俺の耳元でささやいた。
「トンネル内で事故を起こされても、崖から落ちる訳じゃない。仲間に引き込むには、トンネルを出る寸前のあの場所で事故を起こしてもらう必要があった…」
どうしてあの時幽霊か現れたのか、その理由を今知った。
助けるためじゃなかった。むしろ逆だった。だけどもう、総てが遅い。
まんまとこいつの思惑通り、俺も仲間も、後は崖から落ちるだけ…。
トンネルの幽霊…完
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