格闘ゲーム

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 この三ヶ月ほど、夢中でオンラインの格闘ゲームをしている。  俺は昔、ゲーセンに通って腕を磨いていたので、世界中の猛者達を相手にしてもかなり強く、今まで負けたことはない。  かといってそれを自慢する訳ではないし、学生時代ならいざ知らず、社会人になって久しい今は、そもそも周りにゲームの話ができる奴もいない。  そんな中、会社全体の飲み会で他部署の奴と顔を合わせ、ゲームの話しで意気投合した。  そいつも昔から格闘ゲームが大好きで、今、ちょうど同じオンライン格闘ゲームにハマっているという。だからすぐに対戦の約束をした。  早速その夜、俺達はオンラインゲームで対戦した。  飲み会の後だし、明日もまだ仕事はある。なので顔合わせ的に一試合。それの結果は俺の勝ちで、今度はもっと時間のある時にたっぷり対戦しようと決めてゲームを終了した。  でも翌日からそいつと連絡が取れなくなった。所属部署に問い合わせると、事故か何かでかなりの怪我をし、休んでいるらしい。  心配ではあったが、そんな時にあれこれ連絡を入れたらかえって体に障るだろうと、返事は不要と、メールで短いメッセージだけ送っておいた。  その後も、俺は夜な夜な格闘ゲームをしていたのだが、ある日、とんでもなく強い相手と対戦することになった。  当たった異国のプレーヤーはとんでもなく強くて、俺はついに初めての敗北を喫した。とはいえ、あくまでゲームだ。悔しさはあったけれどまあそれだけ。逆に、まだまだ世界には強敵がいるから、これからも腕を磨かなければと燃え上がった。  その時だった。  ふいに鳴った部屋のチャイム。こんな時間に誰だと思いながら玄関先へ行き、覗き窓から外を見たが誰もいない。  誰かのイタズラかと、視線を部屋に向ける。そこに、予想だにしなかった存在がいた。  俺がハマっている格闘ゲームのキャラ。それも、さっき対戦で俺に勝ったキャラクターが部屋の中に立っている。  これは夢か幻か。あんぐりと口を開けて立ち尽くしていると、そのキャラが近寄ってきた。そして…ゲーム開始直後に繰り出されたのと同じパンチを見舞ってきたのだ。  その先に待っていた、一方的なサンドバッグ状態。  さっきの対戦相手が使った技が一つ残らず俺に食らわされる。  その痛みの中、俺は、意気投合した他部署のあいつが怪我をした訳を理解した。  俺と対戦した後、あいつは、俺が使っていたキャラにこうやって痛めつけられたのだ。  なんで二次元のキャラクターが現実世界に出現しているのか。そいつがプレーヤーを襲撃するのか。  何も判らないけれど、一つだけはっきりしていることがある。  俺はもう、怪我が治っても、あの格闘ゲームは二度としない。  誰かを傷つけることも自分が傷つくこともないよう、金輪際あのゲームをプレーすることはやめる。それだけは絶対だ。 格闘ゲーム…完  
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