23.5章『二人のプレシャスな一夜』

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23.5章『二人のプレシャスな一夜』

***23.5-01-01  日曜の夕方。  中心街からの帰り、夕方の辻馬車は、いつもの通勤客がいない分、空いており、俺とレイチェルは揺られ続けていた。 「…………」 「…………」  共にただ無言だった。  それはそうだろう。  手の中にあるモノを再度、確認する。  そこにあるのは古びた鍵。  『天使似』、いや、オフィエル達に託されたこの町の暗部。  町の隆盛の秘密であり、それが明かされることはこの町の滅びをも意味する。  その秘密の重さを俺たちは痛感し—— 「…………えへッ」  ?  な、なんだ? どうした、レイチェル??  これまでずっと無言で俯いていたレイチェルが、ふと、顔を上げる。  にへらっとした笑顔。  ……こんな口角の緩んだレイチェルは初めて見る。 「えへへへ……」  ニコニコ……いや、ヘラヘラ笑顔で、再び落とした視線の先にあるのは、左手薬指に輝く紅玉石(ルビー)の婚約指輪。  なるほど、レイチェルはずっとその指輪を眺めながら無言でニヤニヤしてたのだな。  ……どこに行った、町の秘密よ。その重圧よ、おい。 「アッシュ、本当にありがと。大切にするね……ずっと、ずーっと。一生!」  ま、まぁ、そこまで喜んでくれたのなら俺もほぼ全ての貯金をはたいた甲斐があった、というものだが。  お陰で当分の生活への影響が甚大極まり無いが。  外食を控えざるを得んなぁ……。  それでも、隣で終始、口角を緩ませ続けるレイチェルを見ていると俺まで幸せな気分になるのだった。 ⭐︎⭐︎⭐︎
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