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小学校の同窓会があり、幹事が、当時書いた文集が見つかったと、会場にそれを持ってきた。
文集は『将来の夢』について書かれたもので、実際夢を叶えたものもいれば、そんなことを考えていたことすら忘れたという者もおり、それ一つで随分と場が盛り上がった。
その時に、かつてのクラスメイトの一人が、これは誰が書いたのだろうと皆に尋ねた。
『好物をおなか一杯食べたい』
その出だしで始まる作文は、大好物があるのになかなか口にできない不満が綴られていて、読むだけで、
書いた子の『好物』への思いが強く伝わる内容だった。
「えっと…〇×って誰だっけ?」
「覚えてない」
「私も」
「…確か、転校生だよ。ほんの一、二ヶ月だけクラスにいた」
そういえば、転校してきたものの、すぐにいなくなった奴がいたような…。顔も名前も思い出せないけれど、いたような気はする。
「連絡先とか、まったく判らなくて、同窓会の招待状も送れなかった奴だ」
「全然覚えてないけど、今、どこで何してるんだろうな」
「大好物、おなかいっぱい食べられるようになったかな?」
* * *
人間により上手く擬態するため、十数年前、人間の子供として小学校という場所に通った。
周りには、今すぐ引き裂いて貪りたくなるような、美味そうな人間の子供がずらり。
毎日毎日、これでもかとこみ上げる食欲を抑えるのは大変だった。
それでも目的のために我慢したあの日々は辛かったなぁ。
その頃、文集とやらを作るから作文を書けと言われ、見よう見まねで綴ってみたが、つい本音が文章に漏れ出してしまった。
周りは笑っていたが、心の中は『お前らを腹いっぱい食いたい』という気持ちで溢れていた。
ちなみに今も、当時よりは隠蔽が上手くなったから、そこそこに人間を食べてもごまかせるようになったけれど、まだまだ、いつでも好きな時に好きなだけ腹いっぱいの願いは叶えられてない。
当時の俺。お前の将来の夢はなかなか実現が難しいよ。
将来の夢…完
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