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何人もの人間が一つのテーブルに着いていた。
知った顔もいれば知らない顔もいる。
そこに、どこからかともなく食事が運ばれてきた。
でも、運ばれてきた食事は全員に与えられる訳ではなかった。
目の前に、美味しそうな食べ物の入った皿をいくつも置かれる人と、放置されてただ座っているだけの人。
私は後者で、隣や前の席の人が食事をするのをただ黙ってみていた。
すると、室内に、食事をしていない者は部屋を出て行くようにというアナウンスが流れ、食事を与えられなかった私達は静かに部屋を出た。
…これが、バス事故で重体となり、昏睡状態に陥っていた私が、目覚めた時に覚えていた夢の記憶だ。
その後、同じ病院に搬送された人達とは顔を合わせることもあったが、その中に、あの食卓で食事をしていた人達の姿は、私が覚えている限り一人もなかった。
あれはもしかしたら、生存する者と死者を分ける食卓だったのだろうか。
あの時は羨ましかったけれど、今では、あの時食事が運ばれてこなくてよかったと思っている。
食卓…完
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