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本棚に追加壊れた17時33分
教室の戸を開けたら、そこには二人の生徒。男子と女子。夕日が二人を照らす。時刻は十七時、三十三分。女子は恥ずかしそうに、しかし、はっきりと男子に伝えた。
「好きです。付き合ってください!」
その女子は僕にとっての全てみたいな人だった。そんな彼女が男子に告白をした。僕は思考が停止し、教室に入ることができずにいた。それどころか足が、戸を触れている手が、動かない。
すぐに二人が僕の存在に気づいた。僕らは小さく「あ……」と口にするが、その声が意味するものはきっとそれぞれ違うものだ。彼女は頬を染めていた。夕日のせいでそう見えている。そう思った。思いたかった。けれど、夕日は雲に隠れる。夕日のせいにはできない。
「じゃ、じゃあ、その……連絡先だけでも、いいかな?」
「お、おう」
「返事はメッセージでもいいから」
二人は連絡先を交換し始める。僕はそのやりとりをただ横目に見るだけだ。ああ、そうだ。時計を直さないと。そもそも僕は先生に頼まれて、教室にある時計の電池交換をしにここへ来たのだ。
ぎこちない足取りで教室の脇の壁に設置されている丸い時計を取り外す。白に、黒い針と数字があるだけのシンプルな時計。時計の針は完全に止まっていた。三十三分から動く気配がない。
「ありがとう」
後方から彼女の嬉しそうな声。まだ告白が上手くいったわけではないだろうに。なんだ。なんなんだ。さっきから力が入らない。手が震える。連絡先の交換を終えた二人は教室を出る。
一人になり静寂が教室を支配する。ようやく僕は、彼女に好意を持たれていなかったことを自覚する。そっか。そうだったのか。いいや、理解するのが遅すぎるくらいだ。今まで僕は何もしてこなかったじゃないか。現状に満足して、停滞していた。考えることをやめていた。思考停止していた。彼女が他の男子を好きになるのも当然かもしれない。
「……はあ」
残された僕は、電池を入れ替える。時計は動かなかった。
「完全に壊れてる」
十七時三十三分。そこから針が進むことはない。自嘲染みた笑みが出た。このままだと、きっと僕も止まったままだ。いずれ壊れてしまう。時計のガラス部分が反射して、僕が映し出される。気づかなかった。目に涙を浮かべていた。
僕は時計を置いた。先生に報告しておかないと。制服の袖で顔を拭い、教室を出た。
壊れた時計がぽつんと残される様子を想像した。まるで僕そのもののようで、再び涙が込み上げてくる。
大丈夫。僕は壊れていない。まだ、壊れていない。
完

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