はるとであう

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ご飯、洗濯、ゴミ出し担当は意外と何でも器用にこなす翠さん担当。家賃は後払い。 掃除は俺担当。俺の家なので家賃も俺負担だが、あとで翠さんから二週間分くらいは徴収する予定である。 そもそも何で親友でもない俺たちがルームシェアのようなことをすることになったのか。あれは一週間ほど前のこと。 俺は無事に翠さんにファミレス代を返して、ちょっと色々なところを二人でブラブラして、じゃあ帰るかってなった時。 彼が「原作小説貸してあげる」と言い出した。俺は自分で買うつもりだったから要らないと断った。そこからやけに粘り強い「貸す」「要らない」の問答が始まり、面倒くさくなった俺が折れた。貸してもらうつもりはなかったのだが、一目表紙だけ見たら帰ろうと。そう決意して翠さんの家に行った。誰だ今こいつちょろいって思ったの。ちょろくねーし。 そして着いたら、彼の部屋が水浸しだった。大家さんによると上の階からの漏水らしい。半分以上は濡れていて、ベッドも衣類もびしょびしょだったが何故か奇跡的に本棚スペースは無事だった。翠さんはそこから件の小説を取り出すと、「これだけは無事で良かったー」だなんてへらりと笑って俺に手渡した。いや、そんな場合じゃないだろうが。そう思った時には口に出ていた。 「いやいやいや、小説どころじゃないだろ!どうすんだこれ!」 「なんとかなるっしょ。まぁ小説は濡れなかったんだし、良かった良かった」 カチンと来たというのはこういう時に使う表現だと思う。 「小説じゃなくて自分の心配しろよっ!」 「………はい」 気づいたら俺は彼の胸倉を掴んで、盛大にキレていた。すまなかったとは思う。けれど大家さんの話では暫く住めるような状況じゃなく、上の階の漏水も止まったわけでもなく、暫くはどうにか別のところで寝泊まりしてほしいとのことだった。 キレ散らかした後でハッと我に返って気づいたが、彼には行く当てがあるのかもしれなかった。だから小説のことばっか気にして、あとでその、俺の知らない誰かの家に泊まるつもりなのかもしれなかった。 そうじゃなくてもまぁ近場にはないけどホテルとか、ネカフェとかっていう手もあったはずだ。なのに俺に胸倉を掴まれたまま、深緑はじっと俺を映してこう言った。 「しづきくんち、泊めてくれない?」と。 そうして大して広くもない俺の家での奇妙なルームシェアが始まったわけだけど…これ、俺のせいもあるのかな。ある気がしてきた。いや分からん。でもあそこで怒らないっていうのは無理だったと今でも思う。 だって自分の部屋も家財道具も半分はびしょびしょに濡れて部屋も使えないっていう状況で、一番に心配するのが小説ってさ。それも俺に貸すための、別にレアってわけでもない本のことだなんて。 決して本を馬鹿にしているわけじゃない。でも自分がその本より考える順位が低いってことが腹立たしくて…言ってはいないがちょっと悲しかった。だから俺の家に招き入れてしまったわけだが…それが果たして正解だったのかは甚だ疑問である。 「同棲たのしーね、しーくん」 「ルームシェアな」 「狭いけどそれがまたいいね。いつでも近くに感じられる」 「狭くて悪かったな」 いや、正解じゃなかった気がしてきたな…。 俺はあの小説を何度も読み返したいと思っている。思ってはいるんだ。けれどそうできないのは、うるさい宇宙人がいつでも近くにいらっしゃるからでもある。隙あらば後ろから抱き着いてくるのやめてくんないかマジで。落ち着いて本も読めやしない。 「ねぇしーくんさぁ」 「んー?」 「おれ以外もこの部屋に入れたことある?こんな風に誰か泊めたりした?」 「はぁ?あるわけないだろ」 全く、人が本を読んでる時に話し掛けまくるのやめてほしい。集中が途切れる…。 「ふうん…。よかった」 俺の肩越しに薄暗く光る深い翠に、ほんの少し強められる腕の力に。 視線も意識もずうっと本に向けていた俺が、気づくわけがなかった。

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