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本棚に追加いざ、入寮
『ムギ兄!卒院おめでとう!』
『遠いところに行っちゃっても、僕たちはずっと兄弟だからね!』
『紡くん、いつも下の子達の面倒見てくれてありがとうね。すごく助かってたわ』
『絶対遊びに来てよ!約束!』
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聞き馴染みのある声たちが脳内を漂う。
それはどこか聞いた覚えのある言葉で、声は朦朧でふわふわしてる。
...多分いま、寝ぼけてるな。これを聞いたのは確か...
「ーーぎ様、紡様。起きてください、学園に到着致しました」
施設を出た日だっけ、というところまで思案が辿り着いた時、誰かに身体を揺すられて意識が浮上した。目を開けると、真城家...うちの使用人の顔面ドアップ。辺りを見回せばここはうちが所有してる車の中だと分かる。
どうやら学園への送迎車内で眠ってしまっていたようだ。
今日から新生活が始まるんだ、気を引き締めないと。
私立嶺桜学園。
全寮制の男子校で、上流階級御用達のセレブエリート学校。幼稚舎から大学院までの一貫校で、高等部の校舎は片田舎の山の中にある。生徒の9割は初等部や中等部から持ち上がりの内部生なんだって。
そんな学校に明日、俺は外部生として入学します。
「現時刻は14時48分、寮案内の開始時刻まであと10分程ございます」
「了解です、送ってくれてありがとうございました!」
そして今日は学生寮への入寮日。寮監生に学生寮の説明と案内をして貰う手筈になっている。
寝起き特有のふわふわした頭を覚醒させる為にぶんぶんと頭を軽く振り車を降りる。そして、これから3年間生活する事になる校舎を刮目せんと周囲を見回した。
「おぉ...」
人って本当に驚くと言葉が出てこないものだ。目の前に聳え立つ絢爛豪華な建物に、間抜けにポッカリ口を開けて呆気に取られてしまった。
あれ、此処ってほんとに日本だっけ?なんて錯覚するほど壮観な、外国の洋館のような外観の建物。奥には学生寮らしき高級マンションのような建物も見えた。
ゴーンと鳴り響いた鐘の音は厳かで、思わず体を強張らせる。
「...何かマジで、住む世界が違うって感じだな」
俺...いや、少なくとも1ヶ月前までの俺が通うにはあまりにも異次元過ぎる学校だ。
学校だけじゃない。今身に纏ってる制服も、手に持ってるキャリーケースの中身も、ここまで送迎してくれた運転手、同伴してくれた使用人、そして高級車、現在の実家も。
この1ヶ月で俺を取り巻く環境は見事に180度、ほんとにまるまる一変したんだ。
「どうなる事かと思ったけど...割と楽しみかも」
「それは何よりです。紡様が充実した学園生活を送られるよう祈っております故」
「あっありがとうございます!がんばります!」
まさか使用人さんに独り言を聞かれているとは思わず羞恥で顔が火照る。そんな俺に構わず、ネクタイが曲がっていますよと朗らかな笑顔で直してくれた。
最低でも二回り以上は年上の人にこうして恭しく振る舞われるのが当たり前な現状には未だに慣れない。慣れる気がしない。
帰って行く車を見送った後、俺は寮監生を待ちながら自分の人生を大きく揺るがした変遷期に思いを馳せた。

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