7.望まれた妻でした

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それからひと月ほどして、サフィアは随行者たちと共に隣国へ旅立っていった。向こうについたらすぐ、結婚式を挙げることになっている。 エルシーナはレイナルトと共に彼らの隊列を見送った。結局、ふたりはサフィアに同行しなかった、というのも。 「さぁ、奥様。王女殿下はもう行ってしまわれました、早く屋敷にお戻りになりませんと」 サフィア付きのメイドの言葉にレイナルトが反論する。 「久しぶりの外出なんだ、もう少しくらいいいだろう?」 「いいえ、いけません。安定期に入るまでは安静にとお医者様はおっしゃっておいででした」 ふたりのやり取りにエルシーナは微笑んでいる。 そう、エルシーナの体調不良は妊娠が原因だったのだ。 彼女が王都に来てから、レイナルトは毎晩のように抱き、その最奥に愛を注ぎ続けたのだから、当然と言えば当然だろう。 ふたりはエルシーナが出産を済ませ、落ち着いてから隣国に渡ることになっている。 「心配してくれてありがとう。でもわたしもレイと街を歩きたいわ」 エルシーナの言葉にレイナルトはぱっと目を輝かせる。 「異国のレース編みで作られたひざかけが流行っていると聞いたんだ、妊婦に冷えは禁物だと聞いたし、どうかな?」 それはいつかの茶会で話題になった商人がこの国に持ち込んだ品物で、彼はエルシーナから紹介された侯爵家の後ろ盾を得て、今では王都に店を構える大商人となった。 「そうですね、行ってみましょうか」 エルシーナの承知の返事にレイナルトはさっとエスコートの手を差し出した。 「愛しい(シーナ)よ、お手をどうぞ」 「ありがとうございます、わたしの愛しい旦那(レイ)様」 エルシーナはそう言って、レイナルトの手に自身のそれを重ねた。 【了】
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