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苦笑いするルカに、シグルドは改めて真剣な表情になった。立ち上がって、深々と頭を下げられる。
ルカは驚いて自分も立ち上がり、シグルドの頭を上げさせようとした。だが、シグルドが先に口を開く。
「その、先ほどは本当に失礼した。帝都に結婚相手のことを確認したが、連絡が遅れていたと……それを伝えにきたんだ」
「シグルド皇子、ビアンカから俺に結婚相手が変わったのは本当に初期段階で」
「誠に申し訳ない」
シグルドの両手が震えるほど強く握られていて、ルカは口を閉じた。
結婚相手の変更は、フィオレンテ王国側はウルスス帝国のどの皇子と結婚するのかも分からない段階で伝えている。
シグルドに伝える時間がなかったとは考えにくい。しかしシグルドの様子から、知らなかったのは本当だろう。
ということは、誰かが意図的に伝えずにいたのだ。
ルカは大国の皇子にも複雑な事情があるのだと察し、話してくれるのを待とうと決める。
(必要になったら教えてくれるだろ)
そう考えながら、シグルドの頭を上げてもらう。謝らないといけないのはこちらも同じだ。
「こちらこそ、我儘言ってごめんな。王女じゃなくて王子なんて子どもも産めないし」
「産めないのは私も同じだ。ルカ王子、私の元に来てくれてありがとう。これからよろしく頼む」
何の澱みもなく言われてしまって、ルカはまじまじとシグルドを見てしまう。互いに跡継ぎは必要ない身の上とはいえ、王女がくると思っていたのをこんなにあっさりと受け入れてくれるとは。
拒否されたら途方にくれるしかなかったルカは、ふわりと胸が熱くなるのを感じる。
見つめすぎたのだろう。シグルドは居心地悪そうに黒曜石の瞳を揺らした。
「な、なんだ」
「いやー、シグルド皇子って素敵だなって。顔はかっこいいし、声も体も良いし、性格まで男前。俺が王女だったら、今すぐ抱いてって言っちゃうな」
「……」
シグルドは真顔の上に無言になってしまった。よくある男同士の軽口のつもりだったが、考えてみれば文化が違う。
馴れ馴れしすぎたのかもしれないとルカは焦った。
「あ、ごめん。男同士だからって慎みなさすぎたぁあ!?」
ルカは目を見開き、尻もちをついた。
なんと、目の前にシロクマが登場したのだ。
ドンっと立つシロクマから勢いよく距離をとったルカは、壁に背中をぶつける。真っ青な顔でシロクマに両手を突き出した。
「ご、ごごごめん! 怒らないで!」
「違う。怒ってない。すまない。諸事情が……」
「なに!? 諸事情ってなに!?」
初対面の時も言っていた気がする「諸事情」だが、ルカは意味が分からず声を荒げてしまう。
柔らかい声は確かに先ほどまで会話していたシグルドの物だが、シロクマはどう見ても怖い。遠くで見る分には可愛らしいイメージもあるが、今はあまりにも近かった。
涙目になっているルカに、シグルドはシロクマのまま、静かに語りかけてくる。
「危害は加えないと約束する。あの、疲れているとは思うが、失礼の侘びを兼ねて城を案内しようかと」
「案内……あ、ありがとうございます……」
シグルドに気に入られなければならない、そんな事情以前に。
シロクマに言われてしまうと、どう考えても拒否権はなかった。

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