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本棚に追加1 ヘルモニデス
奴隷船がタルルスの流れをくだっていく。
ヘルモニデスは拘束された状態でオールを握って、なんとなく号令に合わせて体を動かしている。
意図してこうなったわけではない。アテナイオン近郊のオリーブ農園に潜入していたところで、野盗の集団に襲われた。
もちろん、アキレイアス旗下の軍勢ではない。
タルシス陥落の噂が広がり、近郊の盗賊が活気づいた。
そういうことのようだった。
頭目に取り入って味方に引き入れようかと思ったのだが、相手は反乱軍に入る意欲もないただの奴隷狩りだった。
ヘラスの九つの都。
そのうちの一つを落としても世界は変わったようで変わっていない。タルシスの都を一歩出れば、ただ治安が悪くなった程度のことでしかなかった。
ガレー船の漕船甲板は暗く、外を見ることもできないが、船がアテナイオンの都に近づいていることはわかった。
濁った水が、悪臭を放っているからだ。
もう少し明るければ、垂れ流された染料の色も目に入るはずだった。
タルルス河畔と海に面したアテナイオンは、染色と織物の都でもあった。
糸を染めるには大量の水を使う。利用された水はそれぞれの染料の色に染まる。
藍。貝紫。赤。
タルルスの水は、支流ごとにそれぞれの色に汚染されて海に流れ込む。
都に住む労働者たちの生活排水もこれに加わる。
アテナイオンは、文明の汚濁に浮かぶ都であった。

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