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「ほら、ご覧になって。」
「まあ素敵。」
「いつ見てもお似合いね。羨ましい…」
その御方は、いつも皆んなの中心にいる。
長い漆黒のお髪に、キリッと結ばれた口元。
桜貝のような爪先に、コルセットなど不要なくらい細い腰回り。
その立ち振る舞いも何もかもが、上品でお美しい…正に生ける美術品。
『兵藤真璃子』様。
そして、見つめる誰も彼もがその姿に憧れと羨望の眼差しとため息をこぼす彼女の傍に立つのが、末は海軍士官と噂される『神原榮三郎』様。
眉目秀麗、才色兼備の名を欲しいままにする、生ける美術品に相応しい、完璧な殿方。
だから本来この私…斉木葉子のような、地方のしがない地主出身で、見た目も地味でつまらない女には、縁遠い存在でしかなかった。
けど…
「真璃子…いい加減、接吻くらいは許してはくれまいか?僕はこんなに貴方をお慕いし大切にしていると言うのに…」
「なりませんわ榮三郎様。全ては成婚してからになさいましょ?私、まだ気持ちの準備が出来ておりませんの。」
「しかし…」
「真璃子様、神原様、ごきげんよう。」
「!」
学園の裏庭で密やかに愛を囁いていたお二人に声をかけると、榮三郎様はサッと顔を真っ赤にして去っていく。
「あら斉木さん。ごきげんよう。」
「ごきげんよう。真璃子様、そろそろ部活動のお時間ですわ。私、ご一緒してもよろしいかしら?」
「勿論よ。同じ部活動仲間ですもの。それより斉木さん。その様はおよしになって?私達、親友でしょう?」
「親友…ですか?」
囁き、誰もいない空き教室に入った瞬間、真璃子様が…生ける美術品が、私に恭しく傅く。
「うそ!うそよ葉子!!貴女は私のかけがえのないエス…ううん、全てを捧げた愛しい人。でも嫌な人、何故貴女は私に親友だなんて言わせるの?榮三郎のせい?」
「当たり前ではないですか。私のような卑しい出自の者とエスの交わりを交わしたなどと知れたら、折角のご婚約が塵芥のようになってしまいますわよ?」
「そんなのどうでもいい!!どうせ父が勝手に決めてきた家の為の婚姻よ!!私は自由に人を、貴女だけを愛し…ッ!!!」
綺麗な綺麗な唇を塞いで、天鵞絨のような舌に舌を絡ませて突いて、息も絶え絶えに唇を離すと、生ける美術品が、まるで淫らな娼婦のように物欲しげな醜い顔をするから、私は興奮でゾクゾクと昂る気持ちを抑えながら、形の良い彼女の耳元で囁く。
−−お姉様、それ以上は、およしになって。
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