夏休み

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蝉の声が煩くて目が覚めた。差し込む日差しは早朝のものだろうが、再び目を閉じる気にはなれない。 仕方なしに起き出して一日を始める。独り暮らしとはいえ、この時間では物音が気にかかる。なんせ安アパートの壁は薄いのだ。 然し親からの仕送と月によって額の違う決して多くないバイト代で生活している貧乏学生には、これ以上の家賃を払う術がない。 細心の注意を払って身支度を済ませると、もうすることはなくなった。テレビをつける気にはならない。どうせニュースばかりだろう。興味がないこともないが、折角の朝に悲惨な事件の様子なんて見たくなかった。 最近は本当に物騒な話が多い。男であっても一人歩きを控えたくなるほどだ。そうは言っても出掛けないわけにはいかないが。 冷えた床に転がって天井を見つめていると、いつの間にか瞼が落ちた。心地好い闇に包まれ、蝉の声が遠のく。 ほんの一瞬意識が絶えた。五分程度のうたた寝だろうと身を起こしたが、時計は既に正午を指している。 結局午前中を寝潰したことに舌打をしながら冷蔵庫の扉に手をかける。睡眠中に抜けた水分を取り戻そうと喉が渇きを訴えてくる。然し開いた扉の向こうには一本のペットボトルも入っていなかった。 舌打する気力もなく、汗に濡れたシャツを体からむしり取る。棚から適当に出した濃い青のTシャツを頭から被って、パジャマ代わりのトランクスの上に洗いざらしのジーンズを身に付ける。 暑さにだれる体に鞭打って立ち上がり、スニーカーをつっかけて狭い玄関をくぐる。空はうんざりするほど青い。 太陽に焦がされて熱を孕んだドアを足で閉め、熱い鉄に火傷しそうになりながら鍵をかけると、徒歩十分のコンビニを目指して足を踏み出した。 .
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