夏休み

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涼しい店内に別れを告げた後、公園に寄ったのはただの気まぐれだった。元気に遊ぶ子どもたちに惹かれたのだ。 木陰のベンチに腰を下ろして買ったばかりのペットボトルを開ける。500mlの炭酸はみるみる内に減っていった。 小さく息を吐いて背もたれに体を預ける。自然持ち上がる視線が緑の隙間の青を捉え、その鮮やかさを追い払うように目を閉じた。 暑い。 瞼の内側をちらちらと走る光さえ鬱陶しくて目元を覆おうとしたが、腕が持ち上がらなかった。腕だけではなく足も、指さえ動かすことが出来ない。 気付けば辺りに響いていたはずの笑い声も消えていた。ぴくりと瞼が痙攣する。探るようにゆっくりと開いた瞼の奥から見えたのは、いつもと変わらない公園。ただ、まだ昼過ぎにしては静かすぎた。 さっきまであれほど楽しげに騒いでいた子どもたちの姿がない。そして、鼻をつく水の臭い。脳が異常を感じた瞬間、背筋が粟立った。 頭上、視線を少し上げれば見える位置に誰かが立っていて、その誰かは自分を見ている。 見たくない、見てはいけない。足に力を込めると、体はあっさりベンチから浮き上がった。 がたりと音がした先を見れば転がったペットボトルから溢れた液体が小さな音を立てながら地面に吸収されていくところだった。 慎重に首ごと視線を巡らせると、近くで縄跳びをしていた子どもたちがこちらを見つめていた。 不思議そうな視線に苦笑を返してペットボトルを拾いあげると、入り口近くのゴミ箱までゆっくり土を踏みしめて歩く。 手から離れたゴミが金属の籠の中で乾いた音を立てるのと同時に地を蹴って走り出す。公園から離れ人気を求めて辿り着いたコンビニの前に立っても、後ろを振り返ることが出来なかった。 店員の爽やかな笑顔に迎えられ、飲料コーナーからお茶と水を何本か選びレジへ向かう。 「ありがとうございまーす」 店員の声を聞きながらふとレジ脇にある新聞に目をやり、でかでかと踊る太字にまた事件かと溜め息を漏らした。 何気無くその記事を目で追って、渡されたお釣りを取り落とした。小銭が床に当たって跳ねる警戒な音が響く。 慌てて拾いあげ何事もなかったように店を出たが、頭には先程の記事のことばかり。日付は恐らく今日。 発見現場と称して掲載されていた写真に写っていたのは、確かにあの公園のすぐ裏、ちょうどあのベンチから真っ直ぐ歩いた場所にある川だった。 .
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