新しい街

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 あれから一年。  雅樹と私は【風の岬】に来ていた。  あの日サンドキャッスルの多くの住民が謎の失踪を遂げたけど、市議会議員をはじめとする残った砂人間たちが警察やマスコミを上手く丸め込んで事件はうやむやになった。  そして、その砂人間たちも一人また一人とニュータウンから引っ越していった。  結局ニュータウンに残ったのは私たちだけで、不動産会社は何食わぬ顔で空になった家々に新しい入居者を呼び込んでいった。   「もう一年なんて早いわね」  私が持ってきた花束を一号機の土台近くに供えると、雅樹は「あの恐怖は何年経っても忘れられそうもないけどな」と言って手を合わせた。  江永さんは一年前の今日ここで亡くなった。ニュータウンの屋外にいた砂人間たちも、消えてちょうど一年になる。  謎の失踪事件の真相を知る人間は私たちだけだから、せめて私たちだけでも彼らの冥福を祈って命日に花を手向けることにしたのだった。  砂人間に変異させられた陽子ちゃんは、八歳のときに亡くなったのか。それとも……。  砂人間になってもソレイユのことを憶えていたんだから、やっぱり一年前に亡くなったと考えるべきだろうか。  生身の身体が砂に変わったとしても、記憶や心が残っていれば同じ人間のような気がする。  私を救うために江永さんを消滅させた雅樹の前では、さすがにそれを口には出せなかったけど。 「今だから言うけど、冬美のメッセージを読んだ時、もしも既に冬美が変異させられてたら、俺も進んで変異しようと思ったんだ」  雅樹が意外なことを言うから「え!? 本当に?」と風車の音に負けないぐらいの大声を上げてしまった。  今日は一年前とは違って雲一つない快晴。青空に真っ白い風車が気持ち良さそうに回っている。

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