1.新生活と落とし物

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1.新生活と落とし物

――「都会は犯罪も多いし、危ないから気をつけるのよ」 「声をかけられても信用しないこと。ついて行ったりしちゃ絶対ダメよ。怖い目に合うからね」 「夜道はなるべく歩かないようにしなさい。暗い道は特に危険だからな。危ないと思ったら、大声で叫んで走って逃げるんだぞ」 「玄関や窓の鍵を開けっぱなしにしちゃ絶対にいかんぞ。こっちならば問題ないが……誰か訪ねてきても、相手を必ず確認してから開けなさい。お前は女の子だから、用心に用心を重ねるぐらいで丁度いい」―― 上京する時、両親や同居しているおじいちゃんおばあちゃん、親戚や近所のおじさんおばさんにまで、都会は危なくて怖いところだから気をつけろと散々言われたせいで、大学に入学してからというもの、必要な買い物以外は学校と家の往復のみで一ヶ月以上が過ぎてしまった。 都会は田舎とはまるで別世界で、高い建物が多いせいか、空の見える範囲が狭く感じる。地元にいた時は、視界を邪魔するものなんて何もなくて、あんなに広々とした空が見えていたのに。 夜になれば星がキラキラと輝くのが当たり前だと思っていたのに、今は家のベランダから夜空を見上げてみてもあんまり星は見えなくて、地上の方が明るいせいか見えている星の輝きすらも霞んでいる気がする。 何もかもが初めての生活。 一人暮らしはもちろん、近所を歩いていて誰も声をかけてこないのも初めてだし、田んぼや山が見えないのも初めて。 都会的なキラキラ感に圧倒されて、大学でもまだ友達と呼べる人はいないから、休日になると全く誰とも話さなくて……都会での一人暮らしはなんて寂しいんだろうと、この生活を4年も続けるのかと思ったら、夢のためだと思っても最初は泣きそうだった。 (でも、少しは慣れてきた……かな) 寂しさが完全になくなったわけじゃないけど、少しずつ大学生活にも授業の長さにも慣れてきたし、街の様子も分かってきた気がする。 こうやって、いつかはこっちの生活が当たり前になってきたりするのかなと思うと、早くそうなって欲しい反面、それが少し寂しいような気もする。 (バイトでもしてみようかなあ……) お母さん達は何も言わないけど、多分そんなにお金に余裕があるわけじゃないだろうし、再来年には弟も高校を卒業する。まだ進路は決めてないみたいだったけど、多分就職は選ばないんじゃないかと思う。 私がバイトをすれば少しは仕送りだって減らせるし、寂しさも紛らわせるような気がする。 (けど、バイト始めたらやっぱり帰りは遅くなっちゃうか……) 近所で何か事件があったとか、怖い目にあったとか、そういうのも特別ないし、近場のバイトなら…… (多分大丈夫……な、はず。それに、ちょっと憧れてたんだよね) 大学生ってバイトしてる人が多いイメージだし、しんどいことも多そうだけど、楽しいことも沢山ありそう。 (恋愛とかも……してみたいなあ) 今まではみんなのことが大好きで、友達であり家族みたいでもあり……男の子を異性として意識したことも、誰かを特別に思ったこともなかった。 漫画や小説を読んだり、友達が楽しそうに恋バナしてるのを聞くたび、誰かにときめいたり、こんな風に特別な好きを感じてみたいっていつも思ってた。 (私にも、いつかそういう人が現れるのかな。現れるといいなあ……) ほのかにそんな未来を夢見ながら、まずは近くのバイトを探そうとスマホを手に取った。

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