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ある朝、目を覚ましたら、違う部屋の天井を見ていた。いつもの木目が見える天井ではなくて、全体が白い。
現状が理解できず、体を起こそうとしたけど、腰に激痛が走る。
「痛たた、、」
「気がつかれましたか?ユリアン様」
俺が寝ているベッドの横には、群青色の髪に、引き込まれるような美しさの青い瞳の、背の高い男がいた。
こいつは誰だ?ここはどこだ?ユリアンって?
途端に激しい頭痛がして、意識が薄れていった。
次に目が覚めたときも、先程の背の高い男はベッドの横にいた。
ユリアン・アルコ伯爵令息。アルコ伯爵家の一人っ子だけど、オメガ。オメガ?
オメガとは、男女問わず孕める性。頭の中に知らなかった知識が入ってくる。
発情期があり、優秀なアルファ、平凡なベータからは、獣のようだと差別されている。
ユリアンは自身がオメガであることを恥じて、自暴自棄だった。
使用人にあたり、暴飲暴食を繰り返す。
「なんだこの体」
立ちあがろうとするけど、全身が重い。首、肩、腰も痛くて体を起こすこともできない。
「ユリアン様?」
「大丈夫だ、ルカ」
ぽろりと自然にこぼれた言葉で、ベッドの横に立っている男が従者のルカであることがわかった。
俺はトールという名前だった。トールは家族を愛し、市役所職員として真面目に働き、平凡で幸せな人生を送っていた。でも30歳のときに病気で亡くなった。
どうしてここにいるんだ?俺の中に、俺ではない誰かが混じってる感じがする。それがユリアンと呼ばれる人なのか?俺の中の誰かは、固い殻の中に閉じこもっているようだ。
心の中で、ユリアンに呼びかけみるが、何の反応もない。
「もうじきお約束の商人が来ますが、体調が優れないようですので、本日はお断りになりますか?」
「いや、大丈夫だ。会おう」
何を約束しているのかわからないが、会ってみることにする。
「ユリアン様、本日はお招きいただきましてありがとうございます。ご注文の品をお持ちしました」
「注文の品?」
中年の商人が、荷物を広げていく。
「先日の薬の効きが悪いということなので、別の薬をお持ちしました。
こちらの薬は隣国で開発されまして、オメガが、アルファになる薬です。多少の副作用はあるようですが、効果は実証されています」
ユリアンは自分がオメガだということで、辛い思いをしてたんだから、アルファになりたかったんだな。
「その隣国とはどういう国なんだ?」
「我が国は花の都フローラ王国と呼ばれ、商業が発展しておりますが、隣国バルト王国は武力が尊ばれる国です。だからオメガの地位は我が国よりずっと低い。オメガはアルファになりたがるのです。あまり交流がない国ですので、この薬を手に入れるのは大変なんですよ」
「おかしいな?それが本当なら、地位の低いオメガはどうやってその薬を買う財力を得るのだ?」
頭の中の市役所職員トールが、眼鏡を光らせ、怪しい奴だと判断してる。
「はあ、そうですね。それは家族から、、、」
「俺が家族なら、高価な薬を与えるなら、さっさとそのオメガをアルファの妾にでもするがな。騙された俺も愚かだったな。今までのことは不問にするが、誠実な商売をしないなら、もうお前とは取引はしない」
こいつが力のある商人だとしても、人を騙して力をつけたのなら、関わりあわないことだ。
商人なヘラヘラと愛想笑いを浮かべて帰って行った。
前回飲んだ薬も、まともな薬ではなかったのかもしれないな。
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