就職活動

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 亜月は、恥を忍んで全てを話した。不倫を知ったきっかけも、今探偵が証拠を集めていることも。  侑李は、横槍など入れずに静かに亜月の話に耳を傾けた。  亜月も細部まで話す気はなかったが、あまりにも侑李が真剣に聞いてくれるので、つい涙を堪えながら話してしまった。  友人も両親にも、誰にもこの話はできなかった。  同情されるのも、ネタにされるのも、一緒に怒ってくれるのも、どれも嫌だった。ただただ裏切らていることに気付けなかった自分が愚かで、簡単に上司に売られたことが悲しくて、誰にも何の感情も抱いてほしくなかった。  奏士と離婚して初めて、この苦しみを乗り越えてようやく他人に話せると思った。  それなのに、不意にやってきた機会に亜月は身を委ねてしまった。  それは、亜月をよく知る友人でもなく、幸せを願って送り出してくれた両親でもなく、信頼できる仲間でもなかった侑李だからこそ、見苦しくもさらけ出せたのかもしれない。 「証拠があるというのなら、その上司もご主人も到底許せるものではありませんね。実行されていたらとんでもないことになっていました」  侑李は、他人事だというのに鋭い眼光を放ち、亜月以上に憤慨しているようだった。どんな言葉もかけられたくはないと思っていたはずなのに、なぜか亜月の気持ちは少しだけ軽くなった。 「思えば最初から違和感だらけだったんです……。夫婦関係はすごくいいわけじゃないですけど、悪くもなかったと思っていました。でも、夫の私への愛情は微塵もないと知って気持ちは吹っ切れました……」 「離婚して、弊社に勤めて西川さんはそれで満足ですか?」 「え……?」 「社員同士で不倫をしているということは、離婚した後も2人の関係は続くかもしれない」 「離婚した後のことはもう知りません……」 「西川さんは続けたかった仕事を辞めてまで夫のために尽くしたのに? 相手は金だけ払って解決させるんですか?」  丁寧で物腰が柔らかかった侑李の口調が、少し厳しく感じた。
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