穴を掘る

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穴を掘る

 私は穴を掘る。シャベルに足を掛け、体重を掛けて、深く地面に押し込めて。  深い、深い穴を掘る。  「ねぇ、さっきから何をやってるの? 」  見れば分かるのに、そんなことを聞いてくるカリナにイラッとする。    「ほっといてよ!アンタに関係ないっ! 」  「落ち着いてよ。そんなに怒んないでよ 」  「あぁもうっ! うるさいなぁっ!! 」  私は、わざと掘った土をカリナの方へ捨てた。避けようとしたカリナが尻餅をつく。  「アンタもアタシのこと、馬鹿にしてんのっ?!! 」  腹が立つ、腹が立つ、腹が立つっ!どいつもこいつも、私のことを馬鹿にしてっ!  今まで私のことなんか見てなかったくせに進路には口出しする親父も、親父の顔色ばかり窺っている母親も、親切面して私を脅迫する教師も、友達のフリしていたアイツらもっ!  「いたぁい 」と言うカリナの甘ったるい声に、またイライラする。  「あぁ、あぁ、あぁーーーーっ!!くそぅっ!!! 」  怒りが収まらずに、ぐちゃぐちゃに掻き回した髪が手に絡まり数本抜けた。  「ちょっとっ! 髪、そんなにしちゃだめだよ。折角綺麗なのに。岩塚くんも言ってくれたじゃん 」  「……っ!うるさいってんじゃんっ!! 」  岩塚くんの名前を出さないでよ。  岩塚くん、大好きだった岩塚くん。  あぁ、あの時、あそこに居なければ……。    夕日が差す放課後の教室。あの日、私は窓から、サッカー部が練習しているのを見ていた。  「何を見てるんだい? 」  突然声を掛けられて驚いて振り向くと、担任の教師が立っていた。教師はまだ二十代で、私は興味が無かったが、他の女生徒達からは人気があった。  ヤツは人好きのする笑顔で隣りに並ぶと、「おっ、やってるなー 」と外を見ながら言った。  「寒いのに元気だよな。何、高畑もあの中に好きな奴がいるのか? やっぱり、八田か、……岩塚か? 」  否定しようと思ったのに、突然好きな人の名前を出されて、思わず顔に出てしまう。  「ハハッ、正直だな、高畑。岩塚の事が好きか 」  「ちっ、違いますっ! 私、もう帰りますからっ 」  カバンを持ってその場を去ろうとした時だった。  「……岩塚に言ってやろうか? 」

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