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話せると言いたい。彼女のようにはっきりと断言したい。
けれど、それはできなかった。
しようとすれば、あの日の赤がちらつく。瞳の奥にこびりついた悪夢が、千夏の体に吐き気だけを増幅させていた。
そのことに気付いているのか、水城は呆れた顔で溜め息をつく。
その瞳ができる訳がない。と語っている。
「姉さんは、意地悪よ」
気持ち悪さの中、やっとのことで発した言葉は、姉に対する非難の言葉でしかなかった。
「でも、誰かが言わなきゃ気付けないでしょう? 貴方は自分が思っているよりも、限界なんだって。 ……泣かないって決めたなら、無理に泣けとは言わないわ。 でも、このままじゃ貴方は壊れてしまう……私が怖いのはね、私にとっての大切なものが壊れることよ……」
「姉さん…」
「私は本当に、貴方が大切なの」
水城はそう言うと、分かってくれる?と首を傾げた。優しい姉の言葉に千夏は黙ったまま頷く。
彼女の言いたい意味は痛いほど、分かった。どれほど心配してくれているのかも。
けれど、調べることは止められない……。
止めてはいけない。
そんな気がするから……。
「姉さんの気持ちは嬉しいわ……心配してくれて、ありがとう。 でも、私……止められないの…」
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