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「凛太郎、ごめんね」
ずっと悲しげな顔をするからいたたまれなくて謝る。すると凛太郎は弾かれるように振り向き、さらに眉を下げた。
「琴音が謝る必要は……いや、許して欲しかったら俺のお願い聞いて」
しかし何か閃いたように眉毛を上に動かすと、表情を改め神妙な顔で顔を近づけた。
「何?」
「別居の件は取りやめて」
なるほど、別居したいとお兄ちゃんに伝えた話がようやく耳に届いたらしい。
「俺、別居は嫌だ」
弱々しく呟くと、再び困ったような切ない顔で私を見つめてきた。まずい、その子犬みたいな顔には弱いのに。
なりふり構わず私の注意を引こうと甘えるところ、好きだった頃の凛太郎を彷彿とさせる。つまりそれほど追い込まれているということだ。
凛太郎にとっては泣きっ面に蜂の状態なんだろう。別居したいと相談されていると打ち明けられた上に、私が誘拐されたなんて聞いて。しかも攫われるのは了承の上で、自分だけ蚊帳の外にされていたなんて聞いたら。
私から信頼されていないと突きつけられているようなものだ。
「ああ、お兄ちゃんから聞いたんだ。そろそろ荷造りしようと思ってたのに」
だけど気を強く持たないと。ずるずる引きずったってなんの解決には繋がらない。
それに凛太郎、これはあなたが招いた結果でしょ。
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