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数日後、沢木くんの訃報が担任から知らされた。突然のことだった。
先生はあまり詳しく説明しなかった。でも、事故や自殺ではないらしい。クラスは騒然となったし、私もすぐには信じられなかった。彼の死を告げられ、すすり泣く女子もいる中、私はただ呆然とした。
だって、昨日まで普通に会っていたというのに。すぐそこの席に座っていたんだよ。確かに数日前は具合が悪そうだったけど、次の日には通常通りに戻っていた。死んでしまうなんて、そんな片鱗……
脳裏にあの日の彼の台詞が浮かんだ。
花というのは、鏡の中に咲く花のことだろう。それの名前が判明したと言っていた。ずっと探していた花の名にたどり着くことができたのだ。なのに、彼の表情は硬く、全く嬉しそうではなかった。
沢木くんに詳しく問うてみれば良かったけれど、ずっと誰かしらと一緒にいて話しかけるタイミングがなかった。自然を装って避けられていたように思う。これは問い質されたくないのだと察して、無理に聞き出すのはやめた。
そんな矢先に、彼の訃報が告げられたのだ。
私は沢木くんのお葬式に参列した。
他にもクラスメイトの何人かが来ていた。クラス全員で行くのもどうかと話し合って、行きたいと手を挙げた人が代表として参加することとなったのだ。私は迷った末、参加することにした。
一緒に参加したクラスメイトは、みな押し黙っている。
参列者はみな黒い服姿で、お葬式っぽい風景だなあ、なんてことを私は考えていた。現実なのに、どこか遠くの場所の出来事のように感じていた。
担任の先生に連れられて、式場に入る。正直、到着してからの記憶があやふやで、自分がなにをして何を話したのか覚えていない。気が付いた時には、棺の前に立っていた。
祭壇というのだろうか。沢木くんの遺影が置かれ、その周りに花が飾られている。写真の沢木くんは、屈託ない笑みをカメラに向けていた。よく知る、彼の顔だ。
祭壇の前には白い棺が置かれている。内側には布が貼られていた。これなら寝ても痛くなさそうだ。そんなことを思う。死人なのだから、痛みなんて関係ないだろうに。
棺の中には溢れんばかりの花が入っている。別れ花というらしい。訪れた参列者たちが、花を供えていくのだ。これが終われば、もう故人の顔を見ることはできなくなる。これがお別れを告げる最後の機会だった。
棺を覗き込めば、目を閉じた沢木くんが花に埋もれて眠っていた。眠っているように見える。少し前の彼となんら変わりなくて、最後の瞬間だというのに、これでお別れなのだと実感できない。
私は頭を振って、手に持った花を入れようと身を乗り出す。しかし、はたと動きを止める。そして、まじまじと棺とその中の彼を見た。
棺は長方形で、その四角い枠の中に、彼は入っている。
まるで、沢木くんが見ていたという、鏡の中の花に埋もれる彼と同じ姿だった。
沢木くんは鏡の中に……いったい何を見ていたのだろう。
後で沢木くんが描いていた絵を見た。鏡の話を聞いた時に持っていた、あの絵だ。
作成中だったそれは完成していて、細長い花弁が集まった白い花――菊の花が、キャンバスの中で咲いていた。
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