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本棚に追加第一章 後の悪役夫婦は一度死んで、また出会う
「ルトガー・フォン・クライスト元公爵、ならびに、その妻エミリエンヌ・クライスト元公爵夫人。両名を、国家反逆罪により死罪とする」
処刑役人が、高らかにそう叫ぶ。集まった数多の群集全員が、それを称賛する声を上げた。 自由を奪われた中で、ルトガーはかろうじて空のような真っ青な瞳を左右に向ける。
離れた場所に2人並んで座る国王夫婦……今では唯一の肉親となった兄夫婦は、悲痛な面持ちを浮かべつつも、まっすぐに自分たちを見つめていた。
弟である自分が首を落とされる様を、じっと見ている。
それはそうだ。自分たちがそう裁可を下したのだから。目を逸らされてはたまらない。
兄夫妻を一瞬きつく睨みつけると、ルトガーは空を仰いだ。ルトガーの瞳と同じ色のはずなのに、今の空はあいにくの曇天。薄汚いねずみと同じ色に染まっていた。
(空までが、俺を見放したか)
ため息すら尽きた。だが、そんな自分のものとは違う声が聞こえてきた。
「……ぜ……な……」
自分たちを呪う雄叫びに混ざって、その声ははっきりと彼らを呪い返していた。注意していないと聞き逃しそうな、だが、ルトガーの耳にしっかりと刺さる、怨嗟の言葉が並ぶ。
その声は、こう言っていた。
「おのれ……なぜ私がこんな……こんなはずではなかったわ」
地下牢で過ごすうちに、すっかり変貌してしまった妻が、群集の一人一人を睨みながら、そう言う。これもまた、呪いに違いない。
ネズミと変わらないほどに汚らしくなった妻・エミリエンヌは、それでもなお美しく波打つ金の髪を揺らし、日の光を受けて絹糸のように輝いていた。その奥には、翡翠のような瞳が大きく見開かれていた。
この世のすべてを恨み、憎み、呪っているのであろう瞳だ。
仕方のないことだとルトガーは諦めていた。自分たちは『敗けた』のだから。
現国王を排除して、自分たちがその座に就こうと目論み、そして失敗した。悔しいのは理解できるが、当然の末路と言えよう。
だが妻は……エミリエンヌは、そんなルトガーの言葉など聞かない。以前からずっと、そうだ。
ルトガーもまた、エミリエンヌのことなど構ってこなかった。
ただ一つ、この国の王にならないかという企みをもちかけられたこと以外は。
その時の妻を思い出すと、ルトガーの胸のうちに、既に冷めたはずの思いが沸々とこみ上げてきた。
「何故、こうなった……」
群衆の叫びに掻き消され、その声は処刑役人には届かなかった。
呟くと共に、ルトガーは静かに目を閉じた。閉じた瞼の裏に、様々な情景が思い浮かぶ。
ルトガーの最期の言葉に、答えるかのように。

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