鏡の双魂

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鏡の双魂

 ルナリス魔法学院の初日。僕「エリオン・ヴァルティス」は新しいローブを着て、寮の部屋に立っていた。目の前には古い鏡があり、僕はその鏡をじっと見つめた。この鏡は、小さい頃こっそり物置から持ってきたやつだ。いつかは黙って持ち出したことがバレると思っていたけど、ずっと僕の手元にある。 「ねえ、今日から学院だよ。ドキドキするね」  緊張と期待の中で鏡の中の僕に話しかけると、そこにはいつもと変わらない笑顔があった。  小さな頃、鏡の向こうに写るのは僕じゃなくて、双子の弟だと本当に思っていた。きっと理由があって外に出られなくて、僕が話しかけるのを楽しみにしていると思っていた。だから、寂しくないようにたくさん話をして、じゃんけんをして遊んだりした。いつもあいこばかりだったけど、それでも楽しかった。お手伝いさんのリナリアが読んでくれた本を、鏡の向こうの弟にもこっそり読んであげたりもした。  でも大きくなるにつれて、それはただ僕が寂しさからそう思い込んでいただけなのかもしれないと、少しずつ感じるようになっていった。  お父さまもお母さまも忙しくて、いつもひとりでご飯を食べていた。お出かけなんて夢のまた夢だった。いつも僕の隣にいてくれたのは、リナリアとこの古い鏡だけだった。 「あれ? 僕さっきちゃんと髪の毛とかして直したのに。またはねてるよ……」  寝起きで髪の毛が跳ねてしまっているのを見つけて、すぐにリナリアに直してもらったんだ。学院の入学式だから、身だしなみに気をつけなきゃって思ったのに、またぴょこんとはねている。  困ったように鏡をじーっと見ながら直していたら、鏡の向こうの僕がふと笑った気がした。……そんな事があるはずないのに。  きっと気のせいだと気持ちを切り替えて、僕は入学式へと臨んだ。はじめは緊張が勝っていたけど、これからの学園生活の話を聞いたら楽しみという気持ちがどんどん溢れてきた。帰る頃には、朝の身支度のときに感じた違和感など、すっかり忘れ去っていた。 ◇  学院での生活は、大変なことも多いけどとても充実していた。始めは家が恋しくて、ひとり布団をかぶって泣いた日もあった。忙しい両親とゆっくり過ごせる日は少なかったけど、こうやって離れて暮らすとやっぱり寂しくて心細かった。  そんな僕にも友だちが出来た。僕の部屋は階段を上がって通路を挟んだ先の、四部屋だけ孤立しているうちの一部屋だった。建物の構造上そこだけ離れてしまっているらしいのだけど、その四部屋に住むメンバーで仲良くなった。初めての友達との生活は新しいことの連続で、鏡に話しかける時間が減ってきていた。  久しぶりに用事のない休日、僕はしばらく話しかけることのなかった鏡を手にした。なぜか後ろめたさを感じていた僕は、少し前から鏡を隠すように伏せて棚の奥の方にしまっていた。  小さな頃から僕の心の拠り所で、小さな二人だけの世界だった。もしかしたら、そんな僕の心の中が鏡に映し出されたように見えたのかもしれない。鏡に映る自分が違って見えるなんてあるはずがない。けど、入学式の日に感じた違和感は、実はその後も度々発生していた。  魔法の授業で上手くいかなくて泣いて鏡の向こうに話しかけた日は、泣いているはずの僕の口角が僅かに上がって見えた。別の日には、うっかり忘れ物をして先生に怒られ、その日の夜鏡に話しかけた時もニヤッと笑ったような気がした。  その違和感の正体を突き止めようと、色々と魔法を調べて試してみた。けど僕にはまだ難しい魔法だったのか、すべて失敗してしまった。

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