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気が付けば俺の体は地中に埋まっていた。桜の根が絡まり、徐々に俺を締め付ける。
「く、苦しい」
「この子は新しい樹に生まれ変わるの。そうして夜に花を灯すのよ。あなたはその足掛かりの養分。良かったわね償えて」
「そんが。たずげ……」
体が地面に引きずり込まれ、口の中に土が流れ込んできた。苦しさに息を吸うと、さらに土が喉を埋めた。
「あなたみたいな男は、みんなそう言うわ。自分達は被害者の言葉を無視する癖にね。それどころか忘れて生きているだなんて」
息もできず、女の声が水中のように、くぐもって聞こえた。
「だから私は、見えたら手伝いをしてあげているのよ。ふふ」
顔に巻き付いた根が俺の目から滲んだ涙を吸収し、さらに体の中へと侵入してきた。それが俺の最後の感覚だった。
〈怪花篭〉
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