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それは春、桜の季節。俺は大学の友人達と一緒に夜のお花見をすることとなった。
場所は大学からそれほど遠くない場所にある小高い山の上。どうやら戦国時代には山城だったらしいのだが、現在は山桜やソメイヨシノなんかがたくさん植えられて、地元ではそこそこ知られた桜の名所にもなっている。
そのために花見で訪れる者達も当然多かったのであるが、それは昼間だけの話で夜になればまた別だ。
山城の趾として、一応、史跡指定はされているものの、それほどしっかり整備されているわけでもなく、また、公園ではなかったので街灯もほとんどないのである。
桜はたくさんあっても花見の季節だからといってライトアップされるようなこともなく、夜に行ったところで暗すぎて夜桜見物ができるような環境ではない。
だから昼間は花見客でごった返していても、夜は訪れる者のまずいない穴場中の穴場と化していた。
目敏くも、そこに目をつけたのがキャンパーガチ勢の友人Cだった。
彼はキャンプ用にランタンやら何やら照明器具をいろいろ所持していたので、小規模ながらも自前でライトアップをする術を持ち合わせていたのである。
とまあ、そんなわけで夜のお花見をすることになった俺達だったが、いざ行ってみると想像していた以上に最高だった。
全員で乗ってきたCの軽ワゴン車からありったけの照明器具をみんなで運び出し、満開の大きな桜の樹の下にそれらを配置する……すると、漆黒の闇の中、ランタンの明かりに浮かびあがる夜桜はなんとも幻想的な美しさを誇っていたし、他に花見客は誰もいないのでその美しさを独り占めである。
また、この夜の山頂には俺達しかいないので、誰に遠慮することもなく騒ぎたい放題だ。
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