一…幼い頃

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一…幼い頃

まだ幼かった頃。 両親は共働きだった為、近くに住む祖父母の家に、私はよく預けられていた。 三人でよく行く場所があった。 川沿いを散歩で歩いて、公園で遊ぶ。 その公園を抜けた奥に、小さな神社があって、そこには一本だけ大きく存在感をあらわに佇む木があった。 祖父母は手を合わせ、太くなった木の幹を優しく触り、また手を合わせていた。私も祖父母に言われるがまま、触って手を合わせていた。 その後、神社の側にある幼稚園に私は入園する事になる。 その幼稚園では年長になると必ず毎年、その神社の奉仕作業を行っていた。 奉仕作業を終えた後、一人のお婆さんがこの地区の昔話と共に、この神社の由来を教えてくれる。 そして、いつも祖父母と手を合わせていた大木の名を私は改めて知る事になる。 龍神の宿る御神木。 祖父母はいつも私に言っていた。 何か有った時は、この御神木に手を合わせたら、救ってくれる、守って貰えるんだと。 それに影響されたのかは、分からないけれど。 小学生、中学生、高校生、専門学校、社会人になった今でも、私はいつも何か有る度に、ここに来て、この御神木の幹を撫でるように触り、語り掛けて、深く手を合わせていた。 この場所を私に教えてくれた、祖父母もやがて亡くなり、自分の唯一の味方が居なくなってしまった悲しみで、しばらく伏せる日が続いていたその時も、私はここに来て御神木の前で一人で泣いていた。 家族とうまくいかなくなった時も。 仕事内の人間関係に嫌気がさした時も。 自分の将来、答えの出ない事に悩んでいた時も。 やっぱりここに、一人で来ていた。

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