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だから、この嘘を突き通すしかない。
すぐに別れたことにして、二度とこの話を持ち出さないようにすれば、大丈夫なはずだ。
墓場まで持っていってやる。
(でも、あと少しだけでいいから、このぬるま湯に浸かっていたい……)
あたしの家から、学校までの距離は近い。それ故に、毎朝歩きだ。
ほんの十分ぐらいの時間。でも、考え事に適したこの時間は大好きなのだ。
そんな風にいつも通りぼんやりと歩いていたら、背中に軽い衝撃。振り替えると、菫がいた。
おはよ、と挨拶して、菫はあたしと並んで歩き始めた。
「昨日さぁ、デートしたんでしょ? どうだった?」
その言葉にどうしようと思いながら、笑顔が歪まないように頑張っていた。
辛いのだ。
彼氏がいるというのはとてつもなく甘美ではあるが、嘘であるために、あたしの心には重たい暗幕がかかっているようだった。
(それでも、突き通すしかない)
突き通すしかないのだ。
(そう、昨日はカラオケに言ったのだ。それで、うまいって言って貰えた。そのあとは、家まで送って貰って別れた……)
カラオケに行ったことにすればいい。
「カラオケに行ったの。うまいって、言ってくれた」
大丈夫。声は掠れてない。
「莉子ってば、歌うまいもんね。あたしが男だったら惚れちゃう」
菫の言葉を聞いて、あたしはほっとした。
なんとか、切り抜けられたのだ。
でも、油断しているうちに、菫が再び口を開いた。
「今度、弘君紹介してね。莉子の彼氏なんだもん。あたしも喋ってみたい」
頭を殴られたような衝撃。
一瞬唖然としてしまったあたしを、菫が不思議そうに覗きこんでくる。
(弘君は恥ずかがり屋)
そんな言葉が、脳裏を掠めた。
「んー、でも、弘君恥ずかしがり屋なんだ。その内、ね」
急いで続けたその言葉に、菫もなんとか納得したみたいだ。
「そっかぁ。意外だなぁ。んじゃあ、いつか、お願いするよ?」
はいはい、と返事しながら、躱せたことに再びほっと息を着いたのであった。
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