ずれていく現実

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 事件は、昼休みに起きた。  あたしは、いつも通りのメンバーで机を合わせて、弁当を食べていた。  会話に上るのは、他愛もない話。  昨日の、弘君との長電話について喋っていたら、美緒に、 「惚気てるなあ、この子ったら」 と笑われてしまった。  でも、幸せなのだから、それでも良かった。  そんな時、同じクラスの一人の女子が、他の子に付き添われて、泣きながら教室に入って来た。  なかなか無い光景なので、何気ない様子をよそおりながらも、聞き耳をたててしまっている。  その子達が、微かにどうだった、と興奮気味に喋るのが耳に入る。  泣いていた子が口を開いた。 「弘君も、ずっとあたしのことが気になってたって……」  その周りの女子が騒ぐのに反比例して、あたしは時間が止まったかのような気がした。  菫達が、あたしを見てる。 (なんで! あたしが弘君の彼女なのに……) 「嘘! 弘君はあたしの彼氏だよ!」  あたしは、気がつけば、叫んでいた。  教室中の視線が突き刺さる。 (弘君は、あたしが好きって……) さっきまで泣いていた子が、驚いて涙も止まった様子で、 「弘君って、彼女、高校入ってからずっといないはずだよ……?」 (そんなはずない! あたしは、弘君の彼女だ! 一緒にカラオケだって……) 「あたしが、弘君の彼女だよ! 一緒にカラオケだって行ったし、うまいって褒めてくれた!」 (相談にも付き合ってくれて、すごい優しいし!) 「弘君、すごく優しいのに!」  なんで、という思いがあたしを包む。意味が分からない。 (あたしと弘君は、いろんなとこにデートも行ったし、間違いなく付き合っていたのに!)  浮気、なのだろうか。それにしては、早過ぎる。 (それに、あっちから告って来たのに……) そう、弘君から告って来た……はず。  でも、何でその時の記憶がないのだろう。  なぜデートしたときの記憶がないのだろう。  なぜ電話したときの記憶がないのだろう。  息が、苦しい。まるで、水の中にいるようだ。  あたしは、本当に付き合っていたのだろうか。  寒い。体が震える。倒れてしまいそうだ。 (何、考えているの? あたしと弘君は付き合ってるよ)  これは、誰の考えだろう。  これは、誰なのだろうか。 (あたしは、あなただよ?)  
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