一章 北の地にて

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   しかし、この猛吹雪の中、街を出立しようとしても、おそらく門番に止められてしまう。氷属性を得意とするリューティスにとって、吹雪はなんら障害になりえないのだが、それを理解できる者はそうそういないに違いなかった。  この辺りは寒冷な地域であるが、毎日吹雪いているわけではない。数日すればこの猛烈な吹雪はおさまって、一面の雪景色を見ることができるだろう。  付け加え、ここしばらく、街や村に滞在することなく旅を進めていたため、表向き、食料品の調達をしておくべきだろう。実際には、リューティスの時が停止した“ボックス”もどきの中には、一生かかっても食べきれないくらい大量の食料品が詰まっているのだが、表向きの自分はSランク冒険者であり、時属性魔法も空間属性魔法も使えないことになっているのである。 「なら、またどっかで会うかもな」 「……そうですね」  リドは小さな街ではない。しかし、温暖な地域の巨大な街に比べれば、小さな街である。 「では、これで」 「あぁ。元気でな」  手をひらりと振るセルゲイに見送られ、彼の家を後にした。  街灯に照らされた薄暗い街の中を歩き、宿へと戻る。  街の中は静けさに包まれていた。住民たちはもう眠りにつき始めているのだろう。騒がしい気配は一切ない。 .
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