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壱
「門外不出。こちらが嘉神家に代々伝わる御物でございます」
「はっ! これが? 馬鹿にするのもいい加減にしろ! こんな石ころの為に熊本くんだりまで来たわけじゃ……」
スーツが着崩れるほど恰幅のよい男は、目の前に置かれた卵大の石を見ると、最後呂律が回らないほどに激昂した。
「いいえ。間違いなく、この鬼鏡石が、あなたの未来を約束する物です」
腰を浮かせる男の剣幕に動ずる事もなく、老女は石を手に取ると二つに分けた。その両手に携えられた石の断面は、磨き上げられた鏡そのものだった。
「さあさ。あなた様のお望みを」
皮膚が張り付いているだけに見える老女の腕が、震えることもなく男性の眼前につき出された。鏡面のごとき石の断面に映る自分の目に向かい、男は訪れた目的である希望を願った。
まるでそれに応えるように、石に映った男の瞳孔が蛇に似た縦長に変化して見えた。
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