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「門外不出。こちらが嘉神(かがみ)家に代々伝わる御物(ごもつ)でございます」 「はっ! これが? 馬鹿にするのもいい加減にしろ! こんな石ころの為に熊本くんだりまで来たわけじゃ……」  スーツが着崩れるほど恰幅のよい男は、目の前に置かれた卵大の石を見ると、最後呂律が回らないほどに激昂した。 「いいえ。間違いなく、この鬼鏡石(きかがみいし)が、あなたの未来を約束する物です」  腰を浮かせる男の剣幕に動ずる事もなく、老女は石を手に取ると二つに分けた。その両手に携えられた石の断面は、磨き上げられた鏡そのものだった。 「さあさ。あなた様のお望みを」  皮膚が張り付いているだけに見える老女の腕が、震えることもなく男性の眼前につき出された。鏡面のごとき石の断面に映る自分の目に向かい、男は訪れた目的である希望を願った。  まるでそれに応えるように、石に映った男の瞳孔が蛇に似た縦長に変化して見えた。

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