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物心ついたときには、男性器は凶器だった。
父は俺が生まれてすぐ亡くなったらしく、母が再婚した相手は俺にやたらと執着をしていた。
初めは母がいないときに男性器を舐めさせられるところからはじまった。
“言うことを聞かないとお母さん悲しんじゃうよ”
これが口癖だった。
初めて舐めたそこは臭くて気持ち悪くて何度もえずきながら懸命に舌を突き出した。
母が病に倒れ入院すると、義父の行動はエスカレートした。
頻繁に体を弄られ、あろうことか後孔に指を突っ込まれては探るようにいじられ続けるようになった。
ここまでされても、俺は母にこのことが話せなかった。
話せば母が悲しむのではないかと子供ながらに感じていたし、病と戦っている最中に悩み事を増やしたくなかった。
初めて挿入をされたのは中学生の頃。
俺の部屋に、深夜になると義父はやってきた。
ぬるぬるしたものをお尻にかけられて貫かれるその感覚は、ただただ痛みと恐怖しかなかった。
必死に布団を噛んで悲鳴に耐え、泣きながら終わるのを待っていた。
そんな俺も、学校にはちゃんと行かせてもらえていた。
義父の行動はあくまで家の中だけの話で、外から見れば良い父に見えていたと思う。
先生にも相談なんてできなかった。
言えば母に知られてしまうと思ったし、父に性的なことをされているなど惨めで恥ずかしかった。
友達はいなかった。
話しかけられても必要最低限のこと以外は話さない。
そうしていれば、暗いやつだと認定されてそれ以上は話しかけられなくなる。
そうして、大して目立つこともなく中学校時代を過ごした。
高校へ進学すると、たまたま前の席だった男が俺に声をかけてきた。
「俺さ、佐伯絢斗(さえきあやと)って言うんだけど、名前は?」
絢斗と名乗ったその人は、高校生になっても華奢な俺と違い、背が高く細身なのに程よく筋肉がついていることがうかがえた。
目が大きく女みたいな顔の俺とは対照的で、切れ長の目は大人っぽく、到底同じ年には思えなかった。
俺がもしこの人みたいな顔と体格だったら、あんな目には合わなかったかもしれない。
「……篠宮、律(しのみやりつ)」
「律、ね、よろしく」
いきなり名前で呼ばれたことに驚きながらも、すぐに正面に向き直る絢斗にきっとこれ以上話しかけられることはないだろうと安堵する。
俺の対応は決して感じの良いものではないから、そうやってすぐに人が離れていくのはいつものことだった。
けれど、俺の予想は当たらなかった。
「律、昼一緒食べない?」
「律一緒帰ろ」
ことあるごとに、絢斗は俺に話しかけてきた。
意味もなく拒否するのも逆に目立つからと、なんとなく一緒にいることが増えた。
絢斗は特別社交的ということもなく、手当たり次第に誰でも声をかけているわけではなかった。
たまたま席が近く俺が一人でいたから声をかけたのだろうけれど、物好きだと思わざるを得なかった。
絢斗といる時間は、何故だか心地よかった。
ずっと話すわけでもなく、ただ同じ空間にいるだけのことも多かったけれど、それが逆によかった。
昼飯は絢斗が弁当、俺はパンを1つ購入して食べていた。
絢斗の弁当はいつだって色とりどりで栄養が考えられているように思えて、それだけで良い家庭環境なのだと読み取れた。
「律って何か不健康だよな。ちゃんと飯食ってんの?」
「食ってるよ。肉が付きづらいんだよ」
「仕方ないなぁ、俺の唐揚げやるよ」
箸を口の前に出されて、思わず口を開けたらそこに肉を突っ込まれる。
まるで恋人同士がやるような行動だと気付いて慌てて口元を覆うが、もう既に口の中は肉の味でいっぱいで今更だった。
「律ってなんか可愛いな」
絢斗がふっと柔らかく微笑んで、その表情に肉の味さえ分からなくなっていく。
心が温かくて、頭がぼーっとして、心臓が変に高鳴って、これはまずいと脳が警報を鳴らしている。
幼い頃から、仲が良い人なんてひとりも作らなかった。
好きだと思えるのはお母さんだけだった。
明確に絢斗を好きになってしまったのだと自覚したのは、高校生活を1年終えた時だった。

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