合わせ鏡の館

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合わせ鏡の館

 二人の子供もだいぶ大きくなり、マンション暮らしでは手狭になったため、思い切って念願の一軒家を購入することにした。  とはいえ、土地を探して自分で建てるのはもちろんのこと、ローンを組んでも新築を買うのはなかなか経済的に厳しい……ということで、不動産屋を巡って方々探していると、山の手の一等地なのに破格の物件を一つ見つけた。  常識外れなこの値段、山の手でも不便な立地だとか、写真以上にじつはものすごくオンボロだとか、なにかしら問題があるのではないかとあまり期待せずに内見に行ってみたのだが、私のその予想は良い意味で大きく裏切られた。  坂の上ではあるものの駅や商店街へもさほど遠くないし、建物は築50年以上と確かに古くはあるが、白壁の美しいハーフチェンバー様式のモダンな洋館であり、文化財指定されてもおかしくないような逸品だ。  これでなぜ破格の値段なのか? もしかしたら心理的瑕疵(かし)のある──いわゆる〝事故物件〟というやつなのかもしれないが、私はそうしたものを気にする性質(たち)ではない。  また、中に入って各部屋を廻ってみた感じも悪いものではなかったし、むしろ暖かく、ノスタルジーを感じさせる雰囲気だ。  地下と屋根裏の倉庫付き二階建てで英国風の庭もあり、一緒に行った妻や子供達も大満足だ。 「よし! この家を買おう!」  私は一も二もなくすぐさま購入を即決した。もちろん、しがないサラリーマンとしては破格の値段であってもローン十ん年払いではあるが……。

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