16人が本棚に入れています
本棚に追加
それがわかると、洒落た趣向のある建物に思えていたこの館も、なんだか急に不気味な事故物件に見えてきてしまう。
まあ、破格の値段からして何かあるとは思っていたが、これほど恐ろしいトラップが仕掛けられているなんて一言も言ってなかったではないか!
気分が落ち着くにつれ、だんだんと不動産屋への怒りが込み上げてきた私は、翌日、仕事を抜け出してその営業所へ向かうと、いつになく感情も露わに担当の社員をドヤしあげた。
すると、私の剣幕にビビったのか、その担当は次のような経緯を渋々説明してくれる。
まず、あの〝合わせ鏡〟のカラクリであるが、それ自体はなんのことはない、特に何か深い事情があるようなものではなかった。
あの館を建てた最初の持ち主だという資産家が、どうやら江戸川乱歩だとか横溝正史だとかいうミステリの大ファンで、その趣味が高じてあの仕掛けを造ったという話らしい……つまりは酔狂。ただの金持ちの道楽である。
ところが、そのカラクリには思わぬ副作用があった……よく〝合わせ鏡〟は霊を呼び寄せると言われたりもするが、あの館のカラクリもそのご多分に漏れなかった。
幾つもの合わせ鏡を配置することで、すっかりあの館内に霊道を通してしまったのだ。
何か資産家やあの土地に因縁のあったものか? それともただ近くを通りかかっただけの浮遊霊なのかは知らないが、ともかくもその霊道を通して、鏡像内の館の中へあの女の霊を招き入れてしまったのである。
その後、おそらくは資産家も私と同じ目にあったのだろう……だが、彼の場合、鏡を外すことはなく、ある日、書斎で冷たくなっているところを発見された。死因は心臓発作とされているが、まるで何か恐ろしいものでも見たかのように、恐怖で引き攣った顔をして亡くなっていたんだとか。
最初のコメントを投稿しよう!