鏡に私はナニヲ見ル

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 季節はもう夏の終盤を迎えていた。  あれから、また一つの季節が過ぎようとしていたところで、私は体調の良い日が続くようになったこともあり、復職をすることにした。ただし、転属願を先に届けることにしたのだった。  先のことなどわからないなりに、もがいた結果がどうであれ、私は受け入れられると思った。これで会社都合で首を切られるなら、それはそれでいいような気もしたのだ。とりあえずはすぐに出るだろう失業保険をもらいながら職を探すことができる。私は、自分が自分の人生を選択する権利があることを思い出したのだった。  復職するにしても、人を見る目をもっと養わなければならないし、自分にもっと優しくできるように配慮しないとまた潰れてしまう。そういった匙加減が必要なのは、どこの職場に行ってもおなじなのだ。ただそこだけが世界のすべてじゃないことも、辞めることを念頭に置いてみたときにわかってしまった。どこでも選べる。働く場所は、選ばなかったらごまんとあるのだ。まずはなにより、人間関係が良好な職場探しをしてもいいかもしれない。たくさんの選択肢の中で、私は自分に合った道を見つけていこうと思った。  好きな音楽を聴くように、というほどは簡単ではないけれど、無責任と自由をはき違えないように。そういう美意識は持ちながら、人への頼り方を見つけながら、もう一度ちゃんと生きていきたいと思った。  そう思えた今の自分は、嫌いじゃないなと思ったのだった。

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