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満月の光が花あかりを銀色に染める中、ガレオンは闇に身を潜めた。
桜の花びらがひらひらと舞い落ち、夜風に儚く揺れる。
暗殺者としての冷徹な心で、彼は標的を待つ。
スバル王国のクリス王子――今宵、花見に訪れるというその男を。
少数の家臣を連れた王子が現れるのを、ガレオンは息を殺して見つめた。
クリス王子は談笑しながら、月光に照らされて歩いてくる。
その姿はどこかこの世ならざる輝きを放ち、まるで夜の精霊のようだった。
ガレオンは弓を引き、矢を番え、鋭い視線で王子を捉えた。
「やめておけ」
気づかれるはずのない遠距離から、クリス王子がガレオンを直視していた。
ガレオンの指が弦から離れかけた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
クリス王子の声は静かだったが、まるで耳元で囁かれたかのように明瞭に響いた。
木々の影に隠れたガレオンのはずが、王子の視線は正確に彼を捉えている。
月光がその瞳を銀色に輝かせ、まるで夜そのものを宿しているかのようだった。
「なぜ…?」
ガレオンは息を呑み、弓を握る手に力を込めた。
暗殺者としての訓練は、どんな状況でも冷静さを保つことを叩き込んでいた。
だが、今、彼の心は乱れていた。
この距離で気づかれるはずがない。
ましてや、王子の護衛たちは何の反応も示していない。
談笑を続け、酒杯を傾ける家臣たちの中で、クリス王子だけが異質な存在感を放っていた。
「その矢を放てば、お前の命も終わる」
王子は一歩踏み出し、桜の木の下に立ち止まった。
その声は穏やかだが、どこか絶対的な威圧感を帯びていた。
「ガレオン、だな? 誰に雇われた?」
名を呼ばれた瞬間、ガレオンの心臓が跳ねた。
雇い主の名を明かすことなど、暗殺者の掟に反する。
だが、クリス王子の瞳には、まるで全てを見透かすような力が宿っているように感じられた。
ガレオンは唇を噛み、矢を番えたまま動けずにいた。
「答えなくともいい」
王子は微笑み、まるで友と語らうような口調で続けた。
「だが、知っておけ。お前が狙うのは、ただの王子ではない」
その言葉と同時に、風が吹いた。
桜の花びらが舞い上がり、月光を浴びてきらめく。
ガレオンの視界が一瞬、花びらに覆われた。
次の瞬間、王子の姿が消えていた。
「なっ…!?」
ガレオンが慌てて周囲を見回すと、背後から冷たい刃が首筋に触れた。
「動くな」
クリス王子の声が、すぐ後ろから聞こえた。
家臣たちは依然として気づかず、遠くで笑い声を上げている。
ガレオンは自分の鼓動が耳に響くのを感じた。
「お前には選択肢が二つある」
王子は静かに囁いた。
「一つは、このまま矢を放ち、死ぬこと。もう一つは…私に仕えることだ」
ガレオンの額に汗が滲む。
暗殺者として生きてきた彼にとって、標的に仕えるなど考えられない選択だった。
だが、クリス王子の言葉には、拒否を許さない力が込められているように思えた。
月はなおも静かに輝き、桜の花びらが二人の間に舞い落ちる。

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