花あかり

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24214c2f-94fe-41a2-8c97-2d3434eed5da 境内の一角に一本の桜の木がある。 寒さが緩む頃、少しずつ花が咲き始め、訪れる者の歩みをしばしば止める。 『もう春ですね』 桜を愛おしく眺めながら、彼女が言った。 花が好きな彼女は、何かが芽吹くたびに私に教えてくれる。私はそういうものに無頓着で、いつも彼女の言葉で季節を感じていた。 そんな愛しい彼女はもうこの世にいない。 すっかり薄暗くなった境内に、桜の花がふわりと舞う。ぼんやりと浮かび上がる白い花びらに、彼女の面影を探った。 もうこの手に触れることができない。 それなのにこんなにも私の心に浸透している。 桜が咲くたび、花が咲くたび、草木草花が芽吹くたびに、彼女を思い出すだろう。 彼女と過ごした日々は、私にとってかけがえのない宝物なのだから。 【END】 828e778c-1431-4fb4-9ae0-cc332cee8f38

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